187 / 420

第7章 第26話

麻斗(あさと)さんが散歩に出かけるのを見送ってキッチンへ。 試作のためのチョコを刻んでいると、今度は柊吾(しゅうご)がのぞきにやってきた。 刃物を持ってる時はだめって言ってるのに、おかまいなく後ろから抱きついてくる。 「どうしたの、柊吾。休憩?」 コーヒーでも淹れる?って振り返ると、いきなりキスされた。 ついでにお腹や腰のあたりを撫で回されて、下半身をお尻に押しつけられる。 でも、エッチな事がしたいっていう感じの触り方じゃなくて…じゃれてる感じ。 かまって欲しがるなんて可愛い。 勉強ばかりしてて、ストレスがたまってきてるのかな。 仕方ないなぁ、もう。 包丁を置いて柊吾に向き合う。 俺からもぎゅっと抱きついて背中に手を添える。 密着してるから柊吾の心臓の鼓動や呼吸が伝わってくる。 久しぶりの柊吾の温もりに胸がドキン…と音を立てた。 柊吾のにおいに癒されていく。 俺も…かまって欲しかったのかも。 「美味しいチョコ作るから楽しみにしててね」 「ん…、なぁ環生(たまき)」 「んー、なぁに?」 「…そのチョコレート、俺たち以外の誰かにも渡すのか?」 俺を抱きしめる腕に力がこもる。 まるで俺を離さないと言わんばかり。 俺の恋人でもないのに独占欲丸出しの柊吾。 面倒くさいと思う時もあるけど、淋しいなって思ってる今は可愛く感じてしまう。 「わ、渡さないよ。そんな人いないし…」 本命の彼なんていない。 今年のバレンタインはフリーの身。 予定では、素敵な彼ができてチョコレートも溶けちゃうくらいの甘々バレンタインデーを過ごすはずだったのに。 「そうか。それならいいんだ」 安心したような柊吾の声。 ちょっと意地悪してみたくなる。 「…いるって言ったら柊吾はどうしてた?」 「別に…。心配だから尾行して、どんな奴か見てやるよ」 そんな事言ってるけど、イチャイチャデートの邪魔をする気に決まってる。 柊吾は俺に好きな人ができたら淋しいんだ。 「俺に好きな人ができても絶対着いてこないでね。キスしてる時に乱入してくるつもりでしょ」 「キスする前に止めてやる」 「もう…」 柊吾がいたら一生恋人なんてできる気がしない。 もしできなかったら責任とってもらうから…と思うけど、柊吾が恋人になったら束縛がすごそうだし、絶倫だし何かと大変そう。 俺の事を世界一愛してくれて、好きだって毎日言ってくれて、何があっても守り抜いてくれそうだけど。 あれ…? それって、俺の理想の彼氏像に近いかも…。 「何だよ、ニヤニヤして」 「ん…内緒」 柊吾が恋人だったら…って妄想してたなんて絶対内緒。 たぶんお互いにお互いの事は好きだけど、恋愛感情かって言われると、ちょっと違う気がするから。 つかず離れずのこの何だかよくわからない恋人ごっこみたいな関係がお気に入り。 「何だよ、言えよ」 「絶対内緒。でも、柊吾が俺の事大好きだって事がよくわかったから、皆よりチョコ一粒オマケしてあげる」 鼻の先を指先でチョンとつつくと、お返しに鼻の先を甘噛みされた。 「大きめの一粒をキスしながら一緒に食べるのいいな」 そう言って指先で俺の下唇をなぞる。 柊吾とのキスだけでも甘くてとろけそうなのに、チョコも加わったらどうなっちゃうんだろう。 そんな甘いひと時を想像したら、下半身がちょっとだけ反応してしまった。 「…柊吾のエッチ」 「環生もエロい妄想しただろ?」 「……した」 素直に白状すると、柊吾が嬉しそうに笑う。 環生はエロくて可愛いな…と、からかうみたいに両手で俺のお尻を揉み揉みし始めた。 俺も真似をして柊吾の引き締まったお尻を揉み揉みする。 「バレンタインチョコ楽しみにしてるからな」 「うん…頑張るね」 俺たちはまたぎゅっと抱きしめ合った。

ともだちにシェアしよう!