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第7章 第27話
それからしばらく柊吾 はホットチョコレートを飲みながら俺の試作を眺めていた。
見られてると集中できないし、何かと話しかけてくるから、なかなか進まない。
休憩を終えた柊吾が部屋へ戻ると、今度は秀臣 さんがやってきた。
秀臣さんは賢哉 さんと恋人になってから、ちょっと俺を避けてる気がする。
真剣に賢哉さんの事を愛してるとは思うけど、盲目的になるほど夢中って訳でもない…と思う。
嫌われた訳ではなさそうだから、色々遠慮してるんだと思う。
俺も何となく距離感を気にしてしまって、いつもみたいに近づけない。
でも、俺は前みたいに秀臣さんと仲良くしたい。
きっと口数が少なくて控えめな秀臣さんからは来てくれないから、ここは俺の頑張りどころ。
「ねぇねぇ秀臣さん。チョコの味見してみて」
俺が呼ぶと秀臣さんはちょっと嬉しそうな顔をしながらすぐに側へ来てくれた。
いつもと同じ距離感で横に立ってくれてホッとする。
「チョコレートを作っているのか」
「そう、皆の分。賢哉さんの分も作るね」
賢哉さんの名前を出すと、秀臣さんはちょっと困った顔をした。
気まずさを思い出してしまったのかも。
「そうか。きっと賢哉も喜ぶ」
そう言いながら少し離れようとするから、急いで腕を引く。
「俺…秀臣さんに恋人がいても秀臣さんに甘えたいし、今まで通り仲良くしたい。賢哉さんもいいって言ってたからいい?」
ちゃんと秀臣さんの瞳を見て、素直に自分の気持ちを伝えた。
これで無理だって言われたらあきらめる。
でも本当は嫌。
秀臣さんが俺の気持ちに応えてくれる事を願いながら返事を待った。
「あぁ、もちろんだ。賢哉がいても環生 の大切さは変わらない」
色々すまない…と言いながら、秀臣さんは俺を抱きしめて大きな手で後頭部を撫でてくれた。
その言葉や仕草に心が満たされる。
「賢哉さん…チョコレート好きかな」
「賢哉もかなりの甘党だ」
そう教えてくれた後、秀臣さんは少し淋しそうな顔をしながら俺の頬を撫でた。
「可愛い環生に手作りチョコレートをもらって喜ばない男はいない。賢哉まで環生を好きになったら、ますます環生との時間が減ってしまうだろうな。俺は賢哉みたいに上手く環生を喜ばせてやれない。環生を喜ばせる方法を考えてみてもよくわからない」
切なそうな秀臣さん。
不器用ながらも俺を喜ばせようとしてくれるその気持ちが俺にとっては喜びなのに。
「秀臣さんがこうやって抱きしめてくれるだけで嬉しいし、キスやその先の事もしてくれたらもっと嬉しいよ」
大きな手のひらに頬ずりをする。
言葉だけじゃなくて、態度でも伝えたい。
秀臣さんとの触れ合いが嬉しくて癒されるって。
「いいのか、環生。…その…賢哉がいる俺に、大事な体まで許しても」
「うん、いいよ。秀臣さんに抱かれるのも、俺で気持ちよくなってくれてる秀臣さんを見るのも嬉しいから。あ、でも…もし2人の気持ちが変わって秀臣さんと賢哉さんがセックスできるようになったら教えてね。2人の邪魔はしたくないから」
秀臣さんになら抱かれたい。
だって秀臣さんはちゃんと俺の事も考えてくれてる。
性欲処理のためだけに俺を抱くんじゃないってわかるから、安心して身を任せられる。
秀臣さんの言葉を待っていると、秀臣さんはそっと俺の肩を抱いて髪にキスをしてくれた。
「わかった。環生も抱かれたい相手ができたらすぐに教えて欲しい。それまでは今まで通りだ」
「…いいの?」
「あぁ。俺も環生を抱きたい」
「嬉しい。ありがとう、秀臣さん」
ぎゅっと抱きついて、首元に頬ずりして甘える。
秀臣さんも俺を抱きたいって思ってくれた事が嬉しい。
これからも仲良しでいられる事も、遠慮せず甘え放題させてもらえる事も。
トワレの香りや温もりに懐かしさを覚えて、抱きついたまま洋服の上から体に触れる。
広い背中や引き締まった腰、それからちょっとだけ柔らかなお尻。
温もりや体感が気持ちよくて、心も体もふわふわ。
「くっついてたらキス…して欲しくなっちゃった…」
思わずつぶやくと、秀臣さんは恥ずかしそうに頬を染めた。
えっ、どうして…?
いつもキスやそれ以上の事もしてたのに、キスをおねだりしただけでそんな反応するなんて。
「何だかこう…環生に甘えられるのが久しぶりすぎて照れくさい」
「秀臣さん…」
そんな事言われたら変に意識してしまって俺も恥ずかしくなってくる。
付き合い始めのカップルみたいに2人で照れてるのが可笑しくなってきて、ふふっと笑い合う。
「キスして、秀臣さん」
いつもみたいに瞳を閉じて秀臣さんのキスを待つ。
恥ずかしがり屋の秀臣さんは、キスまでにちょっと間がある。
すぐにキスして欲しいけど、この間も結構好き。
唇が触れるまでのドキドキを長く楽しめるから。
どこかぎこちない手つきで肩に手を添えられる。
秀臣さんの緊張が伝わってきて、俺まで緊張してしまう。
賢哉さん、秀臣さんのこういうところが可愛くて放っておけないのかな…。
今度聞いてみようかな…。
そんな事を考えていたら、そっと温かな唇が触れた。
羽根みたいな綿あめみたいな…そんな柔らかなキスだった。
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