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第7章 第28話
それから数日後の事。
チョコレートも上手く作れるようになったし、ラッピング用品も買った。
後は材料を買いに行って当日に間に合うように作るだけ。
先日誠史 さんに帰ってきてメールを送ったけど、相変わらず返信はない。
メールを見てるのか見てないのかもよくわからないけど、そんなのもう慣れっこ。
最初は返信がないのを、仕事が忙しいのかな…とか、邪魔だったかな…とか色々気にしてたけど、よくよく考えたら自由奔放な性格で仕事ばかりしてる誠史さんが、マメにプライベートなメールに返信するとは思えない。
最近はSNSに近況を綴ってるつもりでメールを送る。
秀臣 さんに恋人ができた事、麻斗 さんの仕事が忙しい事、それから柊吾 の受験の事も。
今日は賢哉 さんが家に打ち合わせに来てたからトンカツとコーンコロッケを作って一緒に食べた。
好評だったからまた作ろう。
晩ご飯の後にも打ち合わせを始めた仕事熱心な2人。
きっとこのまま泊まっていくんだと思う。
そろそろ休憩の時間。
いつものようにタイミングを見計らってコーヒーを運ぶ。
「秀臣さん、賢哉さんコーヒー持って来…あっ!」
一応ノックはしたけど、いつもの癖で返事を待たずにドアを開けた俺は2人のキス現場に遭遇してしまった。
濃厚なオトナのキス。
イスに座って作業机に向かっている秀臣さんの側に立っていた賢哉さんが腰を屈めて。
絵になる2人のキスはまるで映画のワンシーンみたいにキレイだった。
セックスはしない2人だけど、好き同士ならキスの一つや二つしててもおかしくない。
場所だって秀臣さんのプライベート空間だし。
でもいつもは俺がキスの当事者。
誰かがこの家でキスしてるのを見たのは初めてで、ただただ驚いた。
秀臣さんは少し慌てた様子だったけど、賢哉さんは平然としていた。
幸せそうな表情で秀臣さんの頬を撫でていた。
「お、お邪魔しました!」
慌てて部屋を飛び出してリビングに戻ると、柊吾がソファーでくつろいでいた。
「どうした、環生。顔真っ赤だぞ」
「えっ、あ…うん。大丈夫」
秀臣さんと賢哉さんの濃厚キスシーンを目撃して照れてるなんて言えない。
そのあたりはプライバシーの配慮と言うか、何と言うか。
心を落ち着かせるために、冷蔵庫のミネラルウォーターを一気飲み。
体が火照ってるせいか、いつもより冷んやりして美味しい気がする。
「大丈夫じゃないだろ、熱でもあるのか」
隣に来た柊吾の大きな手が俺のおでこに触れる。
目の前に柊吾の顔。
だいぶ見慣れたけど、いつ見てもやっぱりカッコイイ。
余計に胸はドキドキするし、何だか頭もぼんやりする。
柊吾は眉間にシワを寄せながら俺の首筋や鎖骨のあたりに触れる。
「やっぱり熱あるだろ」
言われて計ってみたら37.3℃。
風邪でも引いたのかな…。
微熱だし、他に症状もないし、少し休ませてもらえば治るレベル。
それなのにあっという間に柊吾の部屋に連行されてベッドに放り込まれてしまった。
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