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第8章 第6話(※)side.柊吾

〜side.柊吾(しゅうご)〜 「待って、柊吾。まだイッたばかり…あぁんっ」 今さっき俺の手の中で達した環生(たまき)。 気持ちいい事が好きな環生。 口では待てと言いながらも俺を搾り尽くすかのようにギュウギュウ締めつけて絡みついてくる。 きっと後ろでもイキたいはずだ。 まだイッた余韻でビクビク跳ねる体を固定するように抱きしめる。 「待てないな。環生もイキたいだろ」 環生の出した精液を胸に塗りつけながら、前立腺目がけてピストンすると、環生の声が甘く淫らになっていく。 優しいセックスがいいと言いながら、結局望むのは激しめで濃厚な交わり。 お互いの境界線がわからなくなるほど体を密着させて深く繋がるのが好きなんだ。 「環生…イクぞ」 「あぁんっ、俺もイッちゃう…。前立腺だめぇ…ぁ…あん、ああぁっっ…!」 華奢な体を痙攣させながら精液をまき散らしてイク環生。 その様子を見て満足した俺は、熱くて狭い環生の最奥で果てた…。 「だめ…も…無理…」 全力疾走でもした後みたいにハァハァ言いながら、腕の中でくたっと脱力する環生を抱きしめる。 汗ばんだ背中も、火照っていつもより赤みを帯びた体も全部が愛おしいと思う。 「可愛かったぞ、環生」 髪にチュッチュッとキスをしながら、ゆっくり体を離す。 俺に抱かれて満足そうにする顔を見たくてのぞき込むと、環生は泣きそうな顔でギュッと唇を噛みしめていた。 「環生…どうした?」 どう見ても嬉し泣きではなさそうだ。 痛かったんだろうか、それとも嫌だったのか…? 理由はわからないが、俺が泣かせるような事をしたのは確かだ。 全身の血の気がサーっと引いていくのがわかる。 「なぁ、どうしたんだよ」 急いで環生の正面へ移動して様子を伺う。 「…っ、柊吾のバカ。…全然優しいセックスじゃないよ…」 そうつぶやくと、環生は悲しそうに泣き始めた。 しまった、やり過ぎた。 確かに環生の最初の望みは、イチャイチャ甘々の優しいセックスだった。 でも、最終的には環生も激しいのを望んだし、悦んでいたはずだ。 もしかして俺に合わせて演技してたのか…? 「悪かった、環生。環生も悦んでるとばかり…」 「違うの。悦んでたよ。嬉しかったし、気持ちよかった…」 満足したなら何が悪かったんだ…? 今夜のやり取りを思い出してみても、思い当たる節はなかった。 きっと細かな事まであれこれ考える環生は何か気がかりがあるんだろう。 環生の抱えてるモヤモヤの正体を知りたいと思った。 「話せそうか…?」 体が冷えないように毛布をかけてやって丸ごと抱きしめる。 嫌がらないのを確認してそっと手を握ると、濡れた瞳からまた涙がこぼれた。 「俺…最近酷いの。どんどん性欲が強くなってる気がして…。俺ね、賢哉(けんや)さんにも欲情したの。秀臣(ひでおみ)さんの恋人だってわかってるし、そんなのダメだってわかってるのに欲しくなった。もし、あの時秀臣さんが止めてくれなかったら、抱かれてたと思う」 環生の口から藤枝(ふじえだ)さんに欲情した事を聞かされて、頭を殴られたようなショックを受けた。 惚れっぽくて恋愛体質の環生が藤枝さんに好意を抱く事なんて簡単に想像できるし、もうキスの一つや二つしたはずだ。 もちろん俺に口を出す権利はない。 でも、今抱いたばかりの可愛い環生の口から直接聞かされるのは精神的にキツイものがあった。 「俺…自分勝手でだらしないの。賢哉さんに欲情しておきながら、春になって忙しくなる柊吾に抱いてもらえない日が来るのかと思うと淋しくて不安で、願い事を叶えてもらえる券の年間パスなんかねだって…。でも、柊吾だけじゃ足りない。誠史(せいじ)さんや秀臣さんや麻斗(あさと)さんにも抱かれたい。時間ができると、誰とエッチな事しようかってそればかり考えちゃって…」 涙でグシャグシャになった顔で抱きついてくるから、丸ごと受け止めて頭を撫でてやる。 例え環生が節操なしで、優しくされるとすぐに体を許してしまう困った奴でも、環生には自分を卑下する言い方をして欲しくなかった。 相手は俺たち限定であって欲しいけど、『これ美味しい、あっちも美味しそう』って、一口サイズのケーキをつまみ食いするみたいに、俺たちの美味しいとこ取りをして、楽しそうに笑っていればいい。 俺たちの愛情を全部独り占めしてふわふわしていればいい。 「俺は淋しがりやで甘えん坊な環生も可愛いと思ってるぞ」 「…ありがとう。柊吾はいつでも優しいね。…でも、本当に淋しがりやで甘えん坊なだけ…かな。俺…皆に心も体も依存しすぎてるんじゃないかって…」 この前、環生が俺中毒だと不安がっていた事を思い出した。 納得したんだと思ってたが、根本解決はしてなかったようだ。 「考えすぎだ、環生。環生はずっとこの家にいるから、視野が狭くなりがちなんだ。見えてるのはこの家と、この家の人間だけ。それが今の環生の世界の全てだ。俺たちしか見てない。何をするにも俺たちが関わってくる。だから依存してるように思うだけだ」 環生が心配であまり外に出そうとしなかった事を本気で後悔した。 優しい環生も過保護な俺たちの様子を察して必要以上に外へ出ようとはしなかった。 もしかしたら真面目な環生は、家事をするのが仕事だから、家にいるのが当たり前だと思い込んでいたのかも知れない。 好奇心旺盛な環生はもっと色々な物を見て、もっと色々な人と関わり合って、刺激を受けた方がよかったんだ。 この家以外の世界との関わりが必要だったんだ。 そうすれば俺たちとそこまで密に接触する事もなかったし、俺たちとの関係に悩む事もなかった。 全部俺のせいだ。 引きこもりの俺に付き合わせたから…。 「環生、悪かった。俺が環生離れできなかったのが原因だ。環生が離れていくのが怖くて窮屈な思いも辛い思いもさせた。ごめんな…。お前じゃない、俺が環生中毒で環生に依存してたんだ」 環生は驚いた様子で俺の話を聞いていた。 何か言いたそうだったけど、口を挟む事なくじっと耳を傾け続けた。 「…柊吾が原因だなんて思いもしなかった。でも大丈夫、柊吾のせいじゃないよ。外に出る機会なんてたくさんあったのに、俺が勝手に出なかっただけ。柊吾の側にいたら嬉しくて楽しい事ばかり。怖い思いをする事も、悲しい目に遭う事もなくて心地よかったから…つい甘えちゃってただけ」 『嬉しくて楽しい事ばかり』 『心地いい』 俺も環生の側にいたら嬉しくて楽しい事ばかりだ。 環生を笑顔にする事で、俺は自分の存在意義を見出していた。 俺にも居場所がある気がして心地よかった。 環生をかまう事で、知らず知らずのうちに癒されていたんだ。 「俺たち…似た者同士なんだな」 「うん…そうだね。お互い共依存してたのかもね」 ふふっと環生が笑うから、俺も一緒に笑った。 やっぱり環生は笑っていた方がいい。 「ねぇ、柊吾。一緒に大人にならない?お互いの事は変わらずに大切だけど、お互いがいない時でも頑張れる自立した大人に」 「自立した大人…」 俺はまだ経済的にも精神的にも自立してる自覚はない。 でも、世の中には俺と同い年で働いている人も、親になっている人もいる。 まだ勉強したい事があるから、今すぐ働く事も親になる事もないが、少しでも大人に近づけるならそうした方がいいと思った。 「いいな、それ。やってみるか」 「うん、一緒にやろう。素敵なお手本近くにたくさんいてくれるから大丈夫。きっと俺たちならできるよ」 約束…と、環生が華奢な小指を差し出してくる。 「あぁ、約束だ」 俺もそっと小指を絡めると、環生が満足そうに笑った。 「柊吾、約束のキスもしよう」 「そうだな」 具体的に『何を』したら大人なのかは、まだよくわからない。 でも、環生とそれぞれ理想の大人像を思い描いて努力していけば、いずれ大人になれるんだろう。 俺たちは指切りをしながら、ゆっくりと唇を重ねた。

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