206 / 420

第8章 第8話

結局、あの後柊吾(しゅうご)と2人で家の近くの中華料理屋さんに行って、ニンニクたっぷりの大きな餃子を食べてビールを飲んだ。 改めて話す事もなかったけど、柊吾の顔を見てるだけでホッとした。 手を繋ぎながらほろ酔いで近所を散歩してるうちに、どうしても柊吾が恋しくなった。 柊吾も同じ事思ってたんだと思う。 誰もいない所で何度かキスをしてくれた。 夜はくっついて一緒に眠った。 また明日から努力しようねって話しながら。 それから約一週間。 精神的に自立したいと思った俺は、時々自分の部屋で眠るようになった。 やる事がないと淋しくなっちゃうから、本を読んだり、クロスワードパズルをやってみたりして、頭や手を使うようにした。 皆と離れて眠ると朝が来るのが楽しみだし、いつもより皆の顔を見れた時の喜びが大きい。 俺の生活もそれなりに充実してる気がするから、いい傾向かも。 気をよくした俺は大人化計画第二弾を決行する事にした。 俺の考える『大人』は、自分の立場をちゃんとわきまえてる事。 欲しい物があっても我慢ができる事。 俺にそれができたら、恋人同士の秀臣(ひでおみ)さんと賢哉(けんや)さんのおじゃま虫にならずに済むし、俺もあれこれ思い悩む事もない。 今日は賢哉さんが泊まっていく日だから、千載一遇のチャンス。 柊吾には今夜も1人で眠ると伝えて、秀臣さんの部屋へやってきた。 俺が訪ねると、2人は仲良くウィスキーを楽しんでいた。 リビングにいる時より2つのグラスが置かれている距離が近くて、仲良しなんだな…と嬉しくなる。 「ごめんね、2人の時間に…」 「あぁ、かまわない。どうした、柊吾と喧嘩でもしたのか」 最近一緒に寝てないようだが…と、心配そうな秀臣さん。 「ううん、相変わらず仲良しだよ。今日は2人にお願いがあって…」 「僕たちに?」 「そう…。あのね、2人がイチャイチャしてるところを見せて欲しいの」 「わ、わざわざそんなところを見てどうする。見せる物でもないだろう」 秀臣さんは明らかに動揺している様子。 秀臣さんの気持ちも、俺が無茶を言ってるのもわかるけど、どうしても見たい。 2人がイチャイチャしてるところをたくさん見たら、俺なんかお呼びじゃないって思い知るはず。 賢哉さんが好きなのは秀臣さんだって身に染みてわかったら、もし俺と2人きりの時にそんな流れになってもちゃんと自分をセーブできるはず。 「秀臣さんだって俺が麻斗(あさと)さんや柊吾に抱かれてるところ見てるでしょ。お願い、2人が愛し合ってるところを見て、賢哉さんは秀臣さんの大切な人だって思い知りたいの。それに…大人の2人がどうやって仲良くしてるか見てみたい。俺が大人になるために必要なの」 自分勝手な理由で迫る俺を見て、秀臣さんは困った顔をする。 俺の望みを叶えたい気持ちはあっても、さすがに抵抗があるんだと思う。 「いいじゃないか、秀臣。減る物でもないし」 賢哉さんは楽しそうにウィスキーを一口飲んだ。 優雅な仕草が大人っぽくて、思わず見とれた。 「賢哉、お前はすぐに…んんっ」 一瞬の隙をついて、賢哉さんが秀臣さんに口づけた。 この前目撃してしまった時も、何となくそんな感じがしたし、今も驚くくらい自然だったから、いつもキスは賢哉さんからしてるのかも。 目の前で繰り広げられる2人の刺激的なキス。 だんだん秀臣さんも賢哉さんの腰を抱き寄せて、舌を絡めていく。 静かな部屋で聞く2人の吐息とチュ…チュ…と濡れた音。 目が離せないし、ドキドキが止まらない。 大人のタチ同士のキスって何だかエッチ…。 2人とも俺より背が高くて体格もしっかりしてるから、雄感増し増しで迫力満点。 俺がいつもしてるキスと全然違う。 俺のキスはきっと草食獣が肉食獣に食べられてる感じなんだと思う。 2人のキスは肉食獣同士がしてる感じだから、お互いを貪りあってるみたいで荒々しくて…美しい。 どうしよう…。 見ていたら、だんだん体が熱くなってきた。 最近、1人で眠るようになったから、自然とエッチな事をする機会も減っている。 自分で慰める気にはなれなくて、何となく溜まってる感じだから、余計に興奮してしまう。 俺もキス…して欲しい。 秀臣さんと賢哉さんの間に入って、交代でエッチなキスをされたい。 ううん、キスだけじゃ足りない。 体のあちこちに触れてもらって、丸ごとペロリと食べられたい。 でも、だめだめ! 大人はムラムラしてもちゃんと我慢できるんだから。 簡単に欲しがったりしないんだから。 でも…いいなぁ。 気持ちよさそう…。 「これ以上はやめよう、賢哉。環生に見られていると思うと調子が狂う」 秀臣さんはわざとそう言ってくれたんだと思う。 俺の心の葛藤に気づいてくれたんだ。 「…そうか。それなら環生(たまき)も混じればいい」 賢哉さんが、おいでおいでと手招きする。 「おい、賢哉」 「秀臣は、環生も当事者ならいいんだろう?」 賢哉さんは秀臣さんの頬にキスをして立ち上がると、俺を迎えに来てくれた。 「で、でも…俺…」 やっぱりそれはできない。 当事者になったら、せっかくの大人化計画の意味がなくなってしまう。 「おいで、環生。一緒に大人の遊びをしよう」 「大人の…遊び…?」 「そう、大人の遊び。割り切って今を楽しむ。上手く切り替えができるのが大人の証拠」 賢哉さんはイタズラっ子みたいな表情で囁きながら俺の下唇を撫でた。 「賢哉、環生に入れ知恵をするのはやめてくれ。真に受けた環生が、外で誰彼かまわず体を許すようになったらどうするんだ」 「相変わらず秀臣は心配症だ。環生は大人だから、その辺りの分別はつくよ。可愛い環生は秀臣と僕とだから、エッチな事をしたいと思うんだよ」 そうだよね…?と賢哉さんが俺を見るからウンウンとうなずいた。 誰にでも抱かれたい訳じゃない。 秀臣さんと賢哉さんだから…。 「そうなのか、環生」 秀臣さんも俺の様子を伺いながら側に来てくれた。 「うん…。だめ…?」 「…かまわない」 納得した様子の秀臣さんは、おいで…と言うように腕を広げてくれた。 「秀臣さん…」 嬉しくなってくっつくと長い腕でぎゅっと抱きしめてくれる。 「…俺は環生と賢哉の取り合いだけはしたくないんだ。だが、環生も失いたくはない」 「大丈夫、2人の邪魔はしないし、俺も秀臣さんと仲良くしたいから一緒だよ」 約束する…と、秀臣さんの小指に自分の小指を絡めた。 「賢哉さんにも約束する。2人の邪魔はしないから俺も仲間に入れてくれる?」 「もちろん、一緒に遊ぼう」 側に来た賢哉さんは優しく髪を撫でてくれた。 温かくて優しい手が気持ちいい。 その手で背中や腰を撫でて欲しい。 「…本当にいいのか、環生」 「うん…。俺…秀臣さんと賢哉さんと一緒にエッチな事したい…」 俺は秀臣さんの小指に軽く歯を立てた…。

ともだちにシェアしよう!