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第8章 第18話side.柊吾
〜side.柊吾 〜
日に日に春っぽくなってきて、公園の桜が葉桜になった4月の半ば。
復学した大学にも、生活リズムにも何となく慣れてきた頃。
明日の講義は午後からだと知っている環生 が『今夜は一緒に眠ってもいい?』と、俺のベッドに潜り込んできた。
「柊吾、大学はどう?講義は楽しい?」
「あぁ、それなりに楽しくやってるぞ」
「そうなんだ。よかった」
環生は俺の腕枕におさまりながら、楽しそうに話を聞いている。
「環生は昼間何してるんだ?」
「ん…料理動画見たり、ストレッチしたり…とか」
「珍しいな。急にストレッチなんてどうしたんだよ」
「…ちょっと運動しようかな…と思って。ねぇ、俺の事はいいから、柊吾の話を聞かせて。友達はできた?」
俺だって環生が淋しがっていないかが気になるし、1人で何をしているのか知りたい。
でも、環生は俺の事ばかり聞きたがる。
「それなりにな。年下ばかりかと思ってたら、浪人した奴や留年した奴もいるから、同い年もいるぞ」
席が近くて、何となく一緒に過ごすようになった友達の話をすると、嬉しそうにする環生。
顔は笑っているのに、瞳の奥はどこか淋しそうだ。
自分から聞きたがったくせにそんな顔をするのは反則だ。
悪い事や、やましい事をしている訳でもないのに胸が痛む。
まだ『友達の話はしないで』ってスネられた方がマシだ。
「柊吾は大学でもモテモテでしょ?」
「別に…。人並みだろ」
「やっぱり。柊吾は優しいし、カッコイイから皆が憧れちゃうんだろうな…」
俺の見た目だけを気に入って近寄ってくる奴から連絡先を聞かれるのも、デートに誘われるのも、一方的に告白されるのも日常茶飯事。
詳しく話すと、また環生がモヤモヤするだろうから、適当に返事をする。
「声をかけてくるのって女の子?男の子もいるの?」
予想外の勢いで食いついてくる環生。
はぐらかそうとすると、ちゃんと教えて…と、膨れっ面をする。
「ん…まぁ、女の方が多いけど、男もいるし、中にはどっちかわからない奴もいるな」
「そうなんだ…。その中に…いいなって思う人いた?」
「別に…。環生より面白くて可愛い奴はいないな」
安心したような不安そうな複雑な顔。
きっと見た事もない大学の奴にヤキモチをやいているんだろう。
俺が誰かと恋をして、環生から離れていくのが気に入らないんだ。
俺の恋人ポジションはこれっぽっちも望んでないくせに、俺を独り占めしたがるワガママな環生。
まぁ、そのヤキモチもワガママも俺にとっては可愛くてたまらない。
「俺…この家で柊吾と出会えてよかった」
「ん?」
「もし同じ大学だったら歳も離れてるし、住む世界が違いすぎて出会えなかったかも知れないから…。ここの家政夫に応募してよかった。柊吾に優しくしてもらえるし、こうやって柊吾を独り占めできるから」
離さない…とばかりに、俺に抱きついて甘えてくる環生。
環生は言う事もやる事もいちいち可愛い。
自由がきかないくらい束縛されるのは煩わしいけど、これくらいの束縛ならむしろ喜ばしい。
こんなに可愛い環生を見られるなら、もう少しくらい束縛されてもかまわない。
俺だって環生が家にいてくれてよかったと思う。
大学で顔を見かけたくらいなら、こんなに話をする事も一緒に眠る事も…体を繋げるほど深い関係になる事もなかっただろう。
「ねぇ、柊吾…。キスして…」
甘えるような言い方に心臓と下半身が一気に反応した。
環生も硬くなった下半身を俺の太ももに擦りつけて、誘うように腰を揺らしてくる。
「今だけは大学の事全部忘れて。ベッドの中では俺だけの柊吾でいて…」
お願い…と、潤んだ瞳で俺を見るから理性が飛びそうになる。
きっと環生は淋しいんだ。
朝から晩までずっと俺と一緒にいて、留守番もほとんどした事がない。
外に出ている俺でも淋しいと思うから、淋しがりやで甘えん坊で家にいる環生はもっとだ。
慣れないストレッチをして時間を潰そうとするくらい暇を持て余しているんだ。
今すぐ環生を抱こうと思った。
淋しさを忘れるぐらいとことん可愛がって、環生の心も体も満たしてやるんだ。
「環生…」
俺は滑らかな環生の頬にそっと手を添えた。
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