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第8章 第21話

「行ってらっしゃい、柊吾(しゅうご)」 「あぁ、行ってくる。今日は5限までだから3時過ぎに帰ってくるからな」 「うん、待ってるね」 『行ってきます』のキスをねだると、柊吾がチュッとキスしてくれる。 俺からも『行ってらっしゃい』のキスをすると、ぎゅうっと抱きしめられた。 「なぁ、環生(たまき)。一緒に大学まで行かないか?3時過ぎまで離れるの無理だ」 「もう、何言ってるの。電車遅れるよ」 ほらほら…と促すと、柊吾は名残惜しそうに俺の顔中にキスをして出かけて行った。 電車間に合うのかな…。 春から柊吾が復学して、昼間は留守が増えた。 …と言っても、朝には麻斗(あさと)さんが帰ってきてくれるし、秀臣(ひでおみ)さんも家で仕事をしてるし、賢哉(けんや)さんも出入りするから、ほとんどひとりぼっちになる事はなかった。 でも…やっぱり淋しい。 最初はいつもの癖で柊吾の分もお昼ご飯を作ってしまったり、つい話しかけてしまったり。 それだけ柊吾は俺の生活の一部だったから。 この前、俺が淋しがっているのを伝えたら柊吾が大学の講義スケジュールをくれた。 俺はそれを眺めて『今頃お昼食べてるのかな?』とか『そろそろ講義が終わる頃かな?』とか想像して過ごす。 でも、本当に淋しいのは夜。 大学へ行く柊吾に夜更かしをさせるのも申し訳なくて、おしゃべりやエッチな事も控えめにしてるから。 『大人化計画』も頑張り中で、なるべくベタベタ甘えないようにしてるから。 でも…新しい環境に飛び込んだ柊吾は新しい先生にも新しい友達にも出会う。 色々な勉強をして、新しい考え方を身につけるかも。 もしかしたら好きな人ができるかも知れない。 それは自然な事だし、嬉しい事だけど、やっぱりちょっと淋しい。 柊吾の興味が俺からそれるのが怖かった。 美味しい料理で胃袋をつかんで、ベッドで俺の体に夢中になったら、きっと柊吾はすぐに帰ってきてくれる。 そんな単純な考えで、空いた時間に料理の動画を見て腕を磨いた。 エッチな体位にも挑戦できるように、ストレッチをした。 すべすべ肌でいられるように念入りに手入れもした。 麻斗さんが『そんなに柊吾が好きなら、気持ちを伝えればいいのに。柊吾も環生が好きだよ』って言ってくれたけど、それは違うと思う。 柊吾が本当に愛してるのは、亡くした恋人さん。 事故の事を柊吾なりに乗り越えた感じはするけど、それは揺るがない事実。 俺は俺だけを一番に愛してくれる人の恋人になりたいし、柊吾もそれを望んではいないと思う。 でも、柊吾の側はすごく心地いい。 生きてる人間の中では俺を一番に好きでいて欲しい。 そのために努力する。 動機は柊吾だけど、最終的に自分自身の自信に繋がるから。 「環生、ちょっといいか」 「うん、秀臣さん。どうしたの?」 「新作ができたんだ。試着してくれるか」 秀臣さんは嬉しそうな様子で、俺に手作りのパンツを見せた。

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