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第8章 第30話side.柊吾
〜side.柊吾 〜
「…環生 、悪かった」
2人でベッドに並んで座る。
うつむいたまま環生に謝った。
「いいよ。ねぇ、柊吾。正直に話して。柊吾は『何』にモヤモヤしたの?」
「何って…」
あれもこれも全部だと言う訳にもいかなくて、思わず口籠る。
「…柊吾が帰ってきた時に俺が家にいなかった事?それとも柊吾の知らないところで俺が誰かに抱かれてる事?…それとも、それを隠して何事もなかったように柊吾のベッドに潜り込んだ事…?」
環生の言っている事は当たっているような気もしたし、当たっていないような気もした。
上手く答えられなくて黙ったままでいると、俺の手を握った環生が『俺の話を聞いてくれる?』と切り出した。
「俺ね…柊吾の事も、皆の事もセックスも大好き。抱かれたいって思った時に抱かれたいって思った人としたい。これは譲れないし、今までみたいに抱かれた事も言わない。だって今日みたいな事があった時に『おかえり、柊吾。遅くなってごめんね。賢哉 さんとセックスしてたら盛り上がっちゃって。あぁ気持ちよかった』なんて言ったら余計にモヤモヤしちゃうでしょ?」
俺は環生の話に耳を傾け続けた。
実際に環生の口から聞くと、『複数の男と気まぐれにセックスする』ってめちゃくちゃな宣言も、何故か受け入れられる自分がいた。
きっとそんな込み入った話をするのは俺だけだ。
環生の本音を聞けたのが嬉しかった。
「でもね…、柊吾の腕の中が一番落ち着く」
ぎゅってして…って体を寄せてくるから、たまらなくなってきつく抱きしめた。
俺の機嫌を取るための嘘でもいい。
甘えてくる環生はどうしようもなく可愛かった。
「はぁ…幸せ。嬉しい…」
ふにゃっと笑って俺の首筋に頬ずりする環生。
他の誰でもない俺に甘えてくる環生を見ていたら、胸で燻っていた黒い気持ちが少しずつ浄化されていく気がした。
「悪かった、環生。淋しがってるかと思って急いで帰ってきたのに、俺のいないところで環生の毎日が成り立ってるのを目の当たりにして、置き去りにされた気になって、それで…」
淋しかったんだ…と伝えると、環生がふふっと笑った。
「柊吾って面倒くさい」
「面倒くさいって何だよ」
「…でも、その面倒くささも可愛い」
「変な奴」
「柊吾だって」
2人で笑い合ってぎゅっと体を寄せた。
俺の事を面倒くさいって言うけど、コンディションの悪い時の環生は俺よりも面倒くさい。
でも、その面倒くささも可愛いと思うあたり、俺たちはやっぱり似た者同士なんだろう。
「今日は俺の腕枕で眠ってみる?甘えていいよ」
「いいよ、そんなの…」
子供っぽい振る舞いをした上に、甘やかしてもらうのもカッコ悪いし照れくさい。
いいから早く…って言うから、仕方なく環生の腕枕におさまった。
「どう?気持ちいい?」
「別に…」
環生の細い腕に体重を預けるなんてできる訳がない。
環生のにおいと温もりに包まれて落ち着くような気もしたけど、やっぱり落ち着かなかった。
どさくさ紛れにいつものスタイルに戻ると、環生が俺の腰を撫でた。
「柊吾…したい?」
「環生はどうだ」
「俺は…柊吾に任せる」
そう言って微笑むけど、環生にそのつもりがないのはわかっていた。
昼間、アイツに抱かれて満足したはずだから。
「しなくていい。でも…俺の腕の中にいろよ」
「うん。いっぱい甘える」
環生は満足そうに俺にくっつくと、ふわふわと微笑んだ。
俺の好きな笑顔だった。
結局、環生に上手く丸め込まれただけのような気がする。
でも、俺は環生が腕の中にいるこの瞬間が幸せだと思ったんだ…。
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