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第9章 第4話

あっという間にトークショー当日。 楽しみ過ぎて毎日ふわふわした気持ちでいたから、ここ数日どうやって過ごしていたのか思い出せない。 浮かれてる俺が危なっかしいからか、柊吾(しゅうご)が一緒に行くって言い出した。 柊吾は車の運転を控えてるから秀臣(ひでおみ)さんが車で送ってくれる事になった。 トークショーの間はカフェで待っていてくれるらしい。 待っている時の秀臣の話し相手になろう…と、賢哉(けんや)さんも行く事に。 何だか皆を巻き込む大がかりな出来事になってしまった。 「あぁ、緊張する」 まだ車で向かってるだけなのに、心臓もバクバクだし、ちょっと手も震えてる。 一緒に後部座席に座ってる柊吾が心配そうな顔で俺を見る。 この緊張を和らげて欲しくて柊吾に手を伸ばすと、ぎゅっと手を握ってくれた。 「大丈夫だ、俺がついててやるから」 立見席からだけどな…って、優しく笑ってくれた。 「柊吾ありがとう。じゃあ…行ってくるね」 優しい柊吾は、手を繋いで入場口の近くまでついてきてくれた。 「せっかくの機会だからしっかり楽しんでこいよ。俺の事は気にしなくていいからな」 「うん、全神経を研ぎ澄ませて楽しんでくるね」 気合い十分の俺を見て、柊吾がフッと笑う。 頭をポンポンされて、いい感じに肩の力が抜けた。 座席について辺りを見回すと、様々な年齢層の女性ばかり。 いつも男の人だけに囲まれて、女性と接点を持つ事もないし、知らない人とこんなに近づく事もないから何だか落ち着かない。 キョロキョロして柊吾の姿を探すと、俺の様子が見やすそうな位置を陣取って、俺を見つめていてくれた。 大人になろうって決めたのに、ついつい柊吾を頼りにしてしまう。 目が合った柊吾は爽やかに笑ってくれた。 15分くらい待っていると、司会者の女性が現れて明るい声で何かを話し始めた。 香川(かがわ)さんの登場まであと少し…。 心臓がいつもの倍くらいのスピードでドキドキいってるし、手汗もすごかった。 「では、フードコーディネーターの香川恭一(きょういち)さんの登場です。香川さん、お願いしまーす」 会場からは割れんばかりの拍手。 舞台袖から俺の目の前に現れた彼は、白馬の王子様みたいな素敵な人だった。 カッコよくて背が高くて、誠実そうな雰囲気、優しそうな眼差し、姿勢もいいし、歩き方まで優雅。 「こんにちは、香川恭一です。今日はよろしくお願いします」 微笑みながら名乗る声は落ち着いた優しくて甘い声だった。 どうしよう…声まで素敵。 まるで恋でもしてしまったかのような胸のときめき。 イケメンは見慣れてるはずなのに、彼が眩しすぎて呼吸をするのも忘れてしまいそうだった。 テーマは『食育』 ファミリー向けの内容だったけど、彼の言葉を一言一句聞き逃したくなくて、真剣に耳を傾け続けた。 ノベルティの布製コースターは、アイボリーの綿素材。 淡い黄色とオレンジの小さな水玉模様で、角にはカーキ色のイニシャルが刺繍されていた。 優しくて可愛くて、好きな雰囲気。 一緒に入っていた彼の顔写真入りのチラシも俺の宝物になった。

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