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第9章 第6話

柊吾(しゅうご)が俺の作ったから揚げが好きだって言ってくれたから、俺はまた料理の研究を始めた。 香川(かがわ)さんのレシピで脱マンネリ化。 食べてくれる皆の好みを大切に。 自分に自信を持つ事。 その3つを心がけて、全部の要素のいいとこ取りをして、皆に美味しくて栄養たっぷりなご飯を食べてもらえるように努力してる。 和食も頑張ってるから、ロンドン生活が長い誠史(せいじ)さんにも食べてもらいたいな…。 そう言えば、誠史さん元気かな…。 最近、推し活に夢中で誠史さんの事…放置しちゃってた。 GWも終わって、人の流れも落ち着いた頃だから、そろそろ帰ってきてくれるかな…。 きっとまたサプライズで帰ってくるんだろうな…。 『やぁ、環生(たまき)。元気にしていたかい?』って。 誠史さんの姿を想像しながら、ふふっと一人笑いしながら洗濯物を畳んでいると、麻斗(あさと)さんがやってきた。 「環生はいつ見ても楽しそうだね」 可愛くて癒されるよ…と、隣に座ってくれる。 「うん…今ね、誠史さんの事考えてたの。そろそろ帰って来てくれないかな…と思って」 「環生は父さんに会いたいの?」 「うん、会いたいよ」 だって誠史さんはたくさん甘えさせてくれるから。 俺の事をたくさん可愛がってくれるから。 大人の余裕に包まれると心地いいから。 それに…俺と過ごす事を心から楽しんでくれるから。 「きっと環生の思いは海を越えて父さんに届いてるよ。明日あたりにフラッと帰って来たりして」 「まさか…。でも、そうだったら嬉しいな」 「そこまで俺たちの父さんの事を思ってくれてありがとう、環生。きっと素直で優しい環生が息子だったら父さんも幸せだろうね」 誠史さんがお父さん…。 背が高くてカッコよくて優しい誠史さんがお父さんだったら、友達に自慢しちゃうかも。 でも、俺の父さんは田舎にいるあの父さんだけ。 特別顔がいい訳でも、背が高い訳でもないどこにでもいる普通のおじさんだけど、家族のために一生懸命働いてくれて、時々プリンをお土産に買ってきてくれて、俺の事を大切にしてくれるあの父さんが好き。 それに…誠史さんと本当の親子だったらエッチな事できないし。 「誠史さんの息子さんは、麻斗さんはもちろん、秀臣(ひでおみ)さんや柊吾だけ。3人とも誰かが代わりにはなれない大切な存在だよ」 「…ありがとう。環生がここへ来て俺たちと父さんの間に入ってくれたおかげで、少し父さんを近くに感じられるようになったよ」 頭を撫でてくれるのが嬉しくて、ちょっと体を寄せる。 ふわっと抱きしめられる感覚。 与えられる温もりに満たされた気持ちになった。

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