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第9章 第20話side.麻斗

〜side.麻斗(あさと)〜 「俺、トイレ済ませてから寝るね。おやすみなさい、誠史(せいじ)さん」 「1人で行けるかい?」 「大丈夫。大人だから1人で行けるよ、ありがとう」 「そうか…。おやすみ、環生(たまき)」 チュ…と、遠慮がちに唇を重ねる音がした後、環生が布団から出ていく気配がした。 久しぶりの家族旅行。 楽しい時間はあっという間に過ぎていって、2泊3日最後の夜。 環生が皆で布団を並べて寝たいと言い出した。 人気者の環生は誰のベッドに潜り込んだらいいのかわからなくなってしまったんだろう。 誰も悲しい思いをしなくて済むように…。 優しい環生が選んだのは広間での雑魚寝だった。 柊吾(しゅうご)が真っ先に環生の隣を確保した。 環生にイタズラするんだろうな…と、様子を伺っていたら、俺の読み通り。 すぐにちょっかいをかけ始めた。 昼間あんなに環生を抱いたのに、まだ足りないなんて。 最初は俺たちを気にしていた環生もだんだんその気になってきて、柊吾との時間を満喫したようだ。 その後は間をおかずに父さんの布団へ。 最初はキスだけを楽しんでいたようだけど、サービス精神旺盛な環生は、結局口で父さんの欲望を満たした。 性に奔放なのはわかっていたけど、本当に環生はそれを望んでいるんだろうか。 皆に気をつかって無理をしていないだろうか。 なかなか戻って来ないから心配になってくる。 水を飲みに行くふりをして廊下へ出ると、環生はベランダのベンチに座って海がある方を眺めていた。 真っ暗で何も見えないはずなのに。 その横顔がどこか切なそうで儚げに見えた。 「寒くない?環生」 声をかけて隣に座る。 目をこらして見たけど、やっぱり海はよく見えなかった。 「麻斗さん…。うん、大丈夫だよ。ありがとう」 「眠れないの?」 「ううん…。火照った体を冷ましてたの」 さっきまで色っぽい事をしていた名残か、いつもより仕草や声に艶があった。 「環生がしていた事…全部聞こえていたよ。エッチな事ばかりして…」 「ふふっ、だんだん楽しくなっちゃって」 慣れた様子で俺の肩にもたれて甘えてくるから、そっと肩を抱く。 汗をかいた体が夜風で冷えないように。 「…麻斗さんもエッチな事したい?」 「…ありがとう、環生。でも、こういう事は全員平等でなくてもいいからね」 環生は優しくて頑張り屋なところがあるから、無理をしないよう、わざと言葉にした。 皆にしたから俺にもしなくちゃいけないっていう義務を感じて欲しくなかった。 特に性的な事に関しては。 本当に環生がそうしたいと思ってくれた時にして欲しいと思った。 「…ありがとう、麻斗さん。…じゃあまた今度にしようかな」 「ありがとう、環生。気づかってくれて」 頭をナデナデすると、気持ちよさそうに目を細めた。 優しくて甘えん坊で、ちょっとエッチな可愛い環生。 「麻斗さん、俺ね…汗をかいちゃったから露天風呂に入りたいな…。麻斗さん、一緒に入ってくれる?」 エッチなお誘いじゃないよ…と、微笑む環生。 「いいよ。そうだ、環生。冷蔵庫にあったオレンジジュースを飲みながら入ろうか」 露天風呂は今日の昼間に柊吾と3人で体を繋げた場所。 意識した環生が、また俺に奉仕しようとするかも知れない。 ジュースの入ったグラスを持っていれば手も塞がるし、そんな雰囲気にもならないと思う。 「うん、お風呂でジュース飲んでみたい」 瞳を輝かせた環生が嬉しそうに笑った。

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