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第10章 第3話(※)
「はぁ…素敵だった…」
麻斗 さんのサプライズで、推しの香川 さんとおしゃべりできた夜の事。
俺は興奮状態のままお風呂に入って、いつものように柊吾 のベッドに潜り込んだ。
「よかったな、環生 」
「うん、まだ夢見てるみたい」
俺はお昼間の夢のような体験を思い浮かべた。
雑誌の企画で出す事になった香川さんと麻斗さんのコラボレーションメニューは、夏野菜の和風グラタンだった。
出来立てを食べさせてもらったら、豆乳ベースのホワイトソースと合わせ味噌がマッチしたオシャレで優しい味がした。
香川さんと一緒に写真も撮らせてもらったし、サイン入りのレシピ本もプレゼントしてもらえた。
それだけで気絶しそうなほど幸せだったのに、握手までしてもらえた。
想像してたより柔らかくて繊細で、温かな手だった。
一生手を洗わない…なんて思ってたのに、帰ってきた時にいつもの癖でつい洗ってしまった。
でも、香川さんの手の感触はまだ右手に残ってる。
そんなあれこれを思い出すだけで顔が火照る。
浮かれていると、柊吾にぎゅっと抱きしめられた。
髪や耳の後ろのあたりに鼻先を寄せてクンクンする柊吾。
まるで他の男の人のにおいがついてないかを確認するように。
最近の柊吾は誠史 さんが選んだボディケアアイテムの香りも嫌がる。
『肌のケアなんてしなくていい。俺のベッドにいる時はそのままの環生でいてくれ』って何度も言うから、柊吾のベッドに潜り込む夜は何もつけない。
柊吾が体中にキスしたり舐めたりしてくれる時に口に入ってもいけないし…。
俺を抱き終えると、柊吾は爽やかなせっけん香りのするボディクリームを全身に塗ってくれる。
柊吾が選んだ微香タイプ。
肌が乾燥して痒みが出るといけないからって。
無理言ってごめんな…って言いながら。
クリームを塗ってくれてるだけなのに、抱かれた後に丁寧に全身を撫でられると、また柊吾が恋しくなる。
柊吾の選んだ香りと柊吾のにおいに包まれながら、また体を繋げると、どうしようもなく満たされた気持ちになる。
これが…俺の幸せ。
「よかったな、環生」
柊吾はまた同じ事を言いながら俺の背中を撫でた。
『楽しい思い出ができてよかったな。でも、今からは俺だけを見てくれ』
そう言いたそうな顔。
俺が香川さんのファンになってから、柊吾はこうやって俺の気を引こうとする。
俺の気が柊吾からそれるのが淋しいのかも。
俺だって柊吾に推しができたらちょっと淋しい。
推し活は楽しいし、素敵な事だと思うけど、もし柊吾が俺に見向きもせずに推しに夢中になってたら、あの手この手でかまってもらえるように振る舞うだろうから。
「明日、香川さんにお礼の手紙を書くよ。今からは柊吾と過ごすのに忙しいから」
柊吾の真似をして誘うように背中を撫でると、柊吾の瞳が雄みを増した。
俺はその瞳に弱い。
その瞳に見つめられると、身も心も全部丸ごと柊吾に差し出してしまいたくなる。
「…いいのか」
「いいよ。柊吾の望み通りにして…」
柊吾のシャープな頬の輪郭を右手で撫でた。
香川さんに握手してもらった右手。
今日は手をあまり使わないよう簡単なメニューにしようと思ってたけど、皆の顔を見たら何か作ってあげたくなって、結局皆の好きな餃子を作った。
俺の料理を『美味い』って言ってたくさん食べてくれた柊吾。
その柊吾の不安をこの手で和らげて安心して欲しかった。
俺は夢のような思い出より、目の前にいる現実の柊吾との触れ合いの方が大切だから。
微笑むと、柊吾は嬉しそうに覆いかぶさってきた。
さっきまであんなにギラついてたのに、今は懐いてじゃれてくる大型犬みたいで可愛い。
カッコよくて可愛いその絶妙なバランスが魅力的。
「今日は後ろから奥まで一気に挿れてガンガン突いて、意識が飛ぶまで環生をイカせる」
「そ、そんなにすごいの…」
「俺の望み通りにしていいんだろ?」
「う、うん…」
そんなにされて大丈夫かな、俺の体。
明日立ち上がれるかな…。
でも、言った手前、後には引けない。
不安を打ち消すように深呼吸すると、柊吾がプッと吹き出した。
「信じるなよ、嘘に決まってるだろ」
「そ、そうなんだ…」
よかった、体は無事そう。
でも…意識飛ぶくらいめちゃくちゃに抱かれるのも悪くないかも。
後ろから身動きできないくらい抱きしめられて、犯されるみたいに奥までズブズブ突かれて、柊吾の熱いのを奥へ注いでもらえたら気持ちいいに決まってる。
「優しくする。環生が毎日でも俺のベッドに潜り込みたくなるくらい丁寧に抱く」
「あ、ありがとう…柊吾」
ごめんね、柊吾…。
優しい柊吾は、エッチな妄想を繰り広げて、蕾をヒクヒクさせてる俺を丁寧に抱こうとしてくれる。
愛されてるんだ…って思ったら、ますます柊吾が欲しくなって、ぎゅっと体を寄せた。
「俺…やっぱり…最初の柊吾プランがいいな」
だめ…?と、上目づかいをすると柊吾は嬉しそうに笑って頭を撫でてくれた。
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