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第10章 第7話

待ちに待ったチーズケーキデート当日の朝。 着替えようとパジャマを脱いだ俺は悲鳴を上げた。 「な、何これ…」 俺の胸には数え切れないくらいのキスマークがついていた。 ううん、キスマークなんて可愛いものじゃない。 湿疹かと思うくらいたくさんだった。 絶対柊吾(しゅうご)の仕業だ…! 急いでパジャマのズボンも脱いで確認すると太もものあちこちにもキスマークがついていた。 きっと、俺が眠った後につけたんだ。 どうして気づかなかったんだろう…。 ここまでキスマークをつけるなんて衝動的にできる事じゃない。 柊吾は俺が寝ついたらキスマークをつけるって決めてたんだ。 俺の同意の有無に関わらず、香川(かがわ)さんが俺に手を出そうとした時に、彼を怯ませるために。 俺には体を許す相手がいるって単純にアピールするために。 キスマークを見せたくない俺が、香川さんを誘わないように。 もう、何考えてるの…! 洋服から見える所についてないのがせめてもの救い。 相手が誰であろうとも、キスマークを見せるのはちょっと抵抗があるから。 まさかと思ってバッグを確認したけど、さすがにGPSの発信機は入っていなかった。 かわりに、この前の旅行の時に6人で撮った集合写真が入っていた。 『環生(たまき)には俺たちがいるぞ』ってメッセージなんだと思う。 勝手にキスマークをつけるのも、バッグを開けて写真を入れるのもいけない事だと思う。 でも、それだけ俺の事を心配してくれてるんだと思うと、仕方ないなぁ…とも思えた。 「柊吾、やり過ぎだからね」 眠そうにリビングにやって来た柊吾に文句を言うと、何も言わずに抱きしめられた。 「ちょ、柊吾…」 「だめだからな。相手がいくらいい奴でも会ったその日はだめだ」 そう言って全然離してくれない。 そんなの俺が決める事。 心配してくれるくらいならいいけど、禁止までされるとモヤッとする。 柊吾に口出しされたくないって反発したくなる。 柊吾より大人だからもう自分で判断できるのに。 「俺の事信じてくれないなら、今度から誰と出かけるか秘密にしちゃおうかな…」 ちょっと意地悪をしたくなってポツリとつぶやくと、ビクッと反応する柊吾の体。 「…っ、悪かった」 しょんぼりしながら俺を解放する柊吾。 これで束縛も軽くなるかな…と胸を撫で下ろしながら柊吾を見た俺は胸がギュッとなった。 柊吾が淋しそうな悲しそうな顔をしてたから。 わざと柊吾が嫌がる事を言ったから心が痛んだ。 いくら先に嫌な事を言われたからって、仕返しするなんて大人げないと思った。 「ちゃんと自分を大切にするって約束する」 柊吾にぎゅっと抱きついて、自分の気持ちを伝えた。 背伸びをして柊吾の頬に『心配してくれてありがとう』と『ごめんね』のキスをすると、柊吾の表情が少しだけ和らいだ気がした。 「わかった。環生を信じる」 柊吾はそう言ってまた俺を抱きしめた。 「じゃあ…行ってきます」 玄関まで見送りに来てくれた秀臣(ひでおみ)さんと柊吾に行ってきますのキスをする。 「気をつけて行って来いよ。待ってるからな」 柊吾はぎゅっと抱きしめてくれた。 マンションの下へ降りて、もしやと思って見上げると、秀臣さんと柊吾が顔をのぞかせていた。 もう、2人とも過保護なんだから…。 2人に『行ってくるね』と手を振っていると、向こうから淡いグリーン色の車がやってきた。

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