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第10章 第11話side.柊吾
〜side.柊吾 〜
「なぁ、環生 」
「んー、なぁに?」
「…今日…一緒に寝るか?」
ソファーで風呂上がりの環生を待っていた俺は、冷蔵庫の前でミネラルウォーターを飲む環生に声をかけた。
「うん。どうしてそんな事聞くの?」
環生が聞くのも無理はない。
秀臣 と藤枝 さんが付き合い始めてからは、何となく秀臣のベッドに潜り込むのを遠慮している様子の環生。
だから最近はほぼ毎晩俺と一緒だ。
「今日は1人の気分?それなら俺、自分の部屋へ行くよ」
「いや、いいんだ」
「変な柊吾。どうしたの?」
「いや、別に…」
好きな男とデートしてきて浮かれた様子の環生の顔を直視できなかった。
環生が帰ってきたら、ヤラシイ誘いがなかったか、手を出されなかったか、一から十まで全部確認しようと思っていたのに、聞くのが怖くなった。
楽しかったならよかったと思う反面、環生が離れていくのが淋しくて、どんな顔をしていいかも、どう接していいかもわからなかった。
「何かあったの?」
いつの間にか隣に来ていた環生が不思議そうに顔をのぞきこむ。
思わず体を引いて環生と距離を置いてしまった。
「どうして避けるの?俺…何かした?」
淋しそうな環生に胸が痛む。
「別に…何も…」
「それならいいけど…。ねぇ早くベッド行こ」
眠くなっちゃった…と小さなあくびをしながら俺の手を引くから一緒に寝室へ。
環生はいつもと変わらない様子で俺のベッドに横になって、腕枕をして欲しそうに俺を見た。
「触って…いいのか?」
「柊吾…どうしたの?いつもならおかまいなしに触ってくるのに」
「いや、別に…」
好きな男と上手くいったかも知れない環生をいつもみたいに気安く触っていいかわからなかった。
環生の方から寄ってきたからいいか…とも思うが、一度確認しておきたかった。
「俺が触っても嫌じゃないか?」
「うん、俺…柊吾に触られるの好きだよ」
「本当にいいのか?好きな奴とデートしたその日の夜だぞ」
俺の言葉を聞いて全てを察した様子の環生はクスッと笑った。
「香川さんは違うよ。形式上はデートだけど、好きな芸能人の対面イベントに参加してきた感じ。楽しかったけど、彼は物語の中の王子様だから」
割と淡々とした様子の環生は、何事もなかったかのように俺の腕の中におさまった。
それは本心なのか、強がりなのか…。
だって環生は今日のデートをあんなに楽しみにしてたんだ…。
「あきらめていいのか?」
「あきらめるも何も…。全然そういう感じじゃないってば…」
呆れたような困り顔の環生。
いつもなら、そうか…と話を切り上げるが、今日はもう一歩踏み込んでみたくなった。
「全然って事ないだろ。可愛い環生と2人で会って何もない訳…」
「なかったよ、本当に…。楽しくお茶を飲みながらおしゃべりしただけ」
環生の言葉が信じられなかった。
自分から環生をデートに誘ったなら気があるって事じゃないのか…?
それとも、本気でお茶だけのつもりだったのか…。
環生に手を出されてたまるかと思っていたのに、いざ手を出されなかったとわかると胸がざわついた。
もし、環生がそいつとの先を望んでいたなら、きっと悲しい思いをしただろうから。
「何度も言うけど、香川さんとは何もないよ。柊吾が勝手に勘違いして騒いでるだけだから…」
「そう…なのか…」
「そうだよ、もう…」
環生の瞳は隠し事をしたり、嘘をついたりしている感じじゃなかった。
本当に何もなかったらしい。
「どうして柊吾がガッカリするの?柊吾の望み通りになったのに」
環生がクスクス笑って俺の唇にチュッとキスをした。
「俺の事…気にしてくれてありがとう。柊吾の優しさ…嬉しい」
じゃれるみたいに環生が体を寄せてきたから、ぎゅっと抱きしめた。
環生に甘えられて悪い気はしない。
可愛くて思わず頬が緩んだ。
「柊吾の温もり…安心する」
「このまま寝ていいぞ」
この時のためにクーラーの設定温度を下げてある。
環生がくっついてきても暑くないように。
離れていても『寒い』って言って環生からくっついてくるように…。
寝癖がつかないように、環生の髪を撫でて整えると嬉しそうに微笑んだ。
環生が恋をしていないなら…。
変わらず俺を求めるなら今まで通りだ。
誰にも遠慮する必要はない。
思う存分環生を大切にしてやれる。
俺の温もりに安心した環生はもう眠そうだ。
だんだん目が細くなっていく。
「おやすみ、柊吾…」
「あぁ、おやすみ。環生」
俺は環生が寝つくまで柔らかな髪を撫で続けた…。
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