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第10章 第12話

香川(かがわ)さんとの夢の時間から数日後の事。 相変わらず俺は家事とカブトムシの黒糖(こくとう)甘栗(あまぐり)と、2匹の間に生まれた幼虫たちのお世話と推し活が日課。 今日は楽しみにしていたお出かけの日。 友達の湊世(みなせ)さんとランチをする約束をしてる。 待ち合わせは麻斗(あさと)さんのお店。 湊世さんから『香川(かがわ)さんと麻斗さんのコラボレーションメニューを食べたいから、一緒に行きませんか?』と連絡をもらったから。 雑誌の効果か、いつもよりたくさんお客さんがいた。 予約しておいてよかった。 テーブル席でおしゃべりをする若い女性グループ。 ソファー席に2人並んで仲良さそうに食事をしてるカップルもいる。 「環生(たまき)さん、お待たせしました」 「あ、湊世さん。ううん、俺も今来たところ」 湊世さんはミントグリーンのカットソーにグレーのパンツスタイル。 ナチュラルなカジュアルスタイルだけど、どこか清楚で品がある。 会社の同じ部署の紘斗(ひろと)さんと結婚した湊世さん。 人事異動で今は総務部の広報課にいるらしい。 仕事が忙しい紘斗さんに尽くしたいと、今は働く日数や時間、責任も少なめのアシスタント職をしてるんだって。 平日のお昼間に会える同年代の友達が欲しかったし、湊世さんと一度ゆっくり話してみたいと思ってたから嬉しい。 湊世さんも香川さんのファンだし、同じ『受け』同士だし、話も合いそう。 ゆっくりおしゃべりしたいから、ランチコースとコラボメニューをオーダーした。 順番に運ばれてくる前菜やスープをいただきながら 紘斗さんとの馴れ初めや、彼の好きなところ、新婚生活のあれこれを聞かせてもらった。 湊世さんの言葉の端々に紘斗さんへの愛や尊敬する気持ちが溢れてる。 表情も柔らかくて幸せそう。 いいなぁ、優しい旦那様とのラブラブ新婚生活。 「環生さんはいないの?好きな人」 「好きな人…?」 俺の脳裏に浮かんだのは、誠史(せいじ)さん、秀臣(ひでおみ)さん、麻斗さん、柊吾(しゅうご)、それから賢哉(けんや)さん。 「好きな人いっぱいいる…」 「そうなの?素敵。どんな人か聞いてもいい?」 湊世さんは身を乗り出して俺の話に興味津々。 「同じ家に住んでる皆。全員優しくて俺の事をすごく大切にしてくれる人。同じくらい大好きなの」 「そっか…。まだ秀臣さんと麻斗さんにしか会った事ないけど、2人とも素敵だもんね」 「うん…、まだ湊世さんには紹介できてないんだけど、皆のお父さんと、秀臣さんの弟と、秀臣さんの恋人が主要メンバーでね。皆それぞれ魅力的なの」 さらっと全員の紹介をしていくのを湊世さんは楽しそうに聞いてくれた。 「その中に恋愛対象の人はいないの?」 「うん…。人間としての『好き』と恋愛対象としての『好き』の違いがよくわからなくて」 何だと思う?…と聞いてみると、湊世さんはちょっと考えるそぶりをした。 「何だろう…。その人の事を考えると胸がキュウっとなって、独り占めしたくなって、キスやセックスしたいって思う事…かな」 「…俺ね、それを全員に思うの」 「えっ、皆としたいって思うの?」 湊世さんの反応はすごく自然だった。 俺だっていきなりこんな話を聞かされたら、そう思うに違いない。 「うん…。よくない事だってわかってるけど止められない。一緒にいると欲しくなって…。だから、誰が好きなのかわからないの」 「…もしかして環生さん、皆とエッチな事してるの?」 「う、うん…」 「ご、ごめんね…。こんな踏み入った事聞いて…」 どうしよう…と、急に頬を染めて慌て出すから俺まで慌ててしまう。 周りの人から見たらお互いに赤い顔をしてオロオロしてる怪しい2人組。 「だ、大丈夫。俺の方こそごめんね。一途な湊世さんに聞かせていい話じゃなかったね」 「…大丈夫だよ、ビックリして心拍数すごい事になってるけど、環生さんさえよければ話してくれる?」 「う、うん…」 とりあえず落ち着こう…と、俺たちは一緒にアイスティーを飲んだ。

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