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第10章 第13話

一緒に住んでる皆と俺の間に体の関係があると知って驚いた湊世(みなせ)さん。 動揺しすぎて、一気飲みしたアイスティーで盛大にむせたり、わかりやすいくらい目が泳いだり。 その原因は俺なのに、反応が素直すぎて可愛いって思ってしまった。 そんな湊世さんに、俺はひと通りの事を話した。 いきなりプライベートな事を話しすぎかな…とも思ったけど、同じ『受け』の立場で、秀臣(ひでおみ)さんや麻斗(あさと)さんの事を知っている湊世さんになら話せる気がした。 きっと俺は心のどこかで当事者じゃない誰かに聞いて欲しかったんだと思う。 保科(ほしな)家メンバーとの曖昧な関係は自分が望んだ事だけど、時々この特殊な関係や名前のない気持ちが不安になる。 俺…このままでいいのかな?…って。 でも、誰かに話して誤解や否定されるのが怖かった。一方的に関係性を定義づけられるのも嫌だった。 賛成まではしてくれなくてもいいけど、素の俺そのものを受け入れて欲しかった。 「そうなんだ…。それは判断つかないね。俺も環生(たまき)さんの立場だったらわからなくなるかも」 湊世さんはそうつぶやくと、ニコッと微笑んだ。 「環生さんが魅力的だからこそ成り立つ関係なんだろうね。素敵な人たちと一つ屋根の下で暮らして皆に愛される生活ってどんな感じなんだろう…。紘斗(ひろと)さんに叱られちゃうけど、ちょっと体験してみたいかも」 湊世さんは誤解も否定も定義づけもしなかった。 俺の心に寄り添って、ありのままの俺たちの関係を受け入れてくれた。 「俺は湊世さんみたいに大好きな人とラブラブ新婚生活をしてみたい」 こんなに優しくて、素直で、可愛らしい人が人生のパートナーだなんて紘斗さんは幸せ者。 俺だって湊世さんと結婚したいくらい。 「お互いないものねだりなんだろうね。きっと立場が逆になったら、不器用な俺は皆を平等に好きって思えなくて、環生さんみたいにモテモテ生活を楽しみきれないかも」 「俺も…。湊世さんの生活に憧れるけど、好きな人が1人じゃ物足りないって思っちゃうかも」 確かに…って2人で納得して、ふふっと笑い合った。 「いいんじゃない?好きな人がたくさんいても。環生さん、幸せそうだし」 俺はそう思うな…と真っ直ぐ俺を見てくれた湊世さんの瞳は、嘘をついている感じじゃないと思った。 声のトーンも落ち着いていて取り繕った感じもしなかったし、その場しのぎの言葉じゃないとも思った。 「あ、ありがとう…。前向きに受け入れてくれて」 「うん…。もちろん驚いたし、まだ心臓ドキドキしてるし、手汗もすごいけど、皆の事を話す環生さんの笑顔が素敵だったから、愛されてるんだなぁって…」 「うん…。俺、毎日幸せ。あぁ、でもどうしよう。そんな事言ってたら俺、一生運命の人と巡り逢えない気がする」 「運命の人は1人とは限らないんじゃない?愛の形は人それぞれ。当事者さんが皆幸せならそれでいいんじゃないかな」 応援してる…と、湊世さんは天使みたいに優しく微笑んだ。 全てを受け入れてくれる湊世さんの包容力に胸が温かくなったし、目頭が熱くなった。 「ありがとう…、湊世さん」 「えっ、やだ泣かないで…。もらい泣きしちゃう…」 今度は2人そろって涙ぐんだ。 まだ知り合ったばかりの俺のために涙を流してくれる人がいるなんて…。 保科家の皆とは形が違うけど、俺の事を思ってくれる人の存在に幸せを感じた。 もし、この先湊世さんが困るような事があったら全力で力になりたい…。 強くそう思った。

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