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第10章 第14話

湊世(みなせ)さんとのランチから一週間が過ぎた。 まだ梅雨は明けないから、湿度と気温が高くて過ごしづらい毎日。 あまりに暑いから、お昼はサラッと食べられるとろろ蕎麦にした。 秀臣(ひでおみ)さんは部屋で仕事中。 麻斗(あさと)さんはついさっき仕事に出かけたところ。 柊吾(しゅうご)は夕方まで大学。 俺はちょっとのんびりタイム。 晩ご飯は何にしようかな…と、ソファーに座って香川(かがわ)さんのSNSを眺めていたら、だんだん空が真っ暗になってきた。 急に風も強くなってきたし、遠くの方で雷が鳴ってる気がする。 雨が降るのかも知れない。 せっかく干した洗濯物を濡らしたくない俺は、急いで洗濯物を取り込んだ。 人数が多いから洗濯物もかなりの量。 これが濡れたら悲しすぎる。 よかった、間に合った…と思っていた矢先に、ザーザーと雨が降り出した。 ベランダの窓ガラスまで振り込んでくるほどの強い雨。 地響きみたいな雷の音も聞こえる。 さっきより近づいてきた様子。 ど、どうしよう…。 俺は雷が苦手。 子供の頃、1人で留守番していた時にものすごい雷が鳴って怖い思いをしたから。 いつもなら誰かが家にいたけど、その時だけはひとりぼっちで…。 カーテンをしめていてもわかる稲光も、大太鼓をたくさん打ち鳴らしたような大きな音も怖くて怖くて…。 それから雷は俺の苦手なものランキングの上位にランクインするようになった。 今、家にいるのは秀臣さん。 でも、仕事中だから邪魔はしたくない。 この雷の中、外へ出て賢哉(けんや)さんの家へ行くのも怖い。 どうしよう…。 リビングでオロオロしていると、ナイスタイミングで秀臣さんが現れた。 「すごい雷だな」 「秀臣さん…!」 秀臣さんが救世主に見えた。 助けを求めて飛びつくと、驚きながらも俺を抱きしめてくれた。 「どうした、環生(たまき)…」 「雷が怖くて…。秀臣さん助けて…」 震えながらぎゅうっと抱きつくと、秀臣さんは俺を抱き抱えたまま一番窓の小さな俺の部屋へ連れて行ってくれた。 カーテンを閉めて、窓から一番遠いところに座ると、俺を膝の上に乗せて背中をトントンしてくれた。 「少しの辛抱だ」 「うん…」 秀臣さんが側にいてくれて心強いけど、怖いものは怖い。 ゴロゴロ…と、音が鳴る度にビクッと反応してしまう。 秀臣さんは大きな手で俺の両耳を覆ってくれた。 『これで聞こえないだろう』って言いながら。 これ…懐かしい…。 秀臣さんがしてくれた事は、雷を怖がる幼い俺に母さんがしてくれた事と同じだった。 秀臣さんの声が聞こえるから、もちろん雷の音だって聞こえてしまう。 でも、秀臣さんの優しい笑顔や、耳で感じる温もりに不思議と安心できた。 「大丈夫だ、側にいる」 「ありがとう…秀臣さん」 このまま落ち着くのを待とうと思っていたら、窓の外がピカッと光った。 「ひゃっ…」 光ると数秒後に大きな音が鳴るって知ってるから怖くなった。 思わず目を閉じて怯えていると、ふと唇に感じた柔らかさ。 秀臣さんの唇だ…。 「ただ待つのも辛いだろう。こうしてキスをしていれば多少は気も紛れる」 俺の耳を塞いだまま、秀臣さんは何度も何度もキスをしてくれた。 そのキスはだんだん顎や首筋、鎖骨へとおりてくる。 口づけの仕方がちょっとエッチな感じ。 秀臣さんと2人きりになるのは久しぶり。 雷が怖いはずなのに、唇の感触が心地よくてその気になってきちゃった…。 「環生…」 名前を呼ばれて目を開けると、秀臣さんは欲情した瞳で俺を見ていた。 こっそり確認したら、下半身もしっかり反応してる。 俺にムラムラしたのが丸わかりだった。 「秀臣さん…エッチな顔してる…」 「いや、その…。俺の腕の中で震える環生が可愛らしいと思ったら、つい…」 環生が怖い思いをしているのにすまない…と、気まずそうな顔をする。 俺も秀臣さんと同じだよ…って伝えたくて、硬くなった俺自身を押しつけた。 「怖い雷の記憶…秀臣さんが上書きして…」 俺は秀臣さんにキスを仕掛けながら、そっと大きくなった下半身を撫でた。

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