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第10章 第15話side.秀臣

〜side.秀臣(ひでおみ)〜 「着たままするの、何だかエッチ」 環生(たまき)は俺に抱きついたまま、ふふっと笑って敷いた布団に横になった。 「臍を取られたら困るんだろう」 小さな臍を手の平で覆うと、コクリとうなずいた。 愛らしい環生は『雷様にお臍をとられちゃう』と、脱ぐのを拒んだ。 環生は肌と肌の触れ合いを好む。 いつものように脱がせるつもりだったが、そう言われてはあきらめるしかない。 上は着たまま、下は脱いだ状態の姿が慣れなくて落ち着かない。 『臍は隠す』が大前提だから、カットソーを捲り上げる訳にもいかない。 これでは環生の好きな胸を存分に可愛がってやれない。 どうしたものか…。 「秀臣さんに抱きしめられると、嬉しくて雷の存在忘れそう…」 環生は俺の不安を解消させるのが上手い。 計算尽くではないだろうから、もっと本能的なもの。 自分の気持ちを言葉にできる素直さ。 誰かと同じ時間を過ごす事を喜ぶ気持ち。 それが備わっている環生だから皆が夢中になるんだ。 最初は怯える環生を安心させるつもりで抱きしめた。 耳を塞いだのは、柊吾(しゅうご)の幼い頃にもした事だ。 雷を怖がる柊吾が泣き止む唯一の方法だった。 ふと当時を思い出してそうした。 環生に頼られたのも、甘えられたのも久しぶりだ。 いつもは穏やかで優しい麻斗(あさと)や、環生のためなら何でもする頼もしい柊吾がいて、不器用で口数の少ない俺の出番はないからだ。 今なら俺の腕の中で震える環生のために何かしてやれる…そう思った。 きっと麻斗なら、環生が落ち着くような優しい言葉をかけ続けるんだろう。 きっと柊吾なら、環生が雷の存在を忘れるような楽しい会話をするんだろう。 俺には何ができる…? ぎゅっと瞳を閉じて怯える環生の気をそらす方法を考えるんだ。 可愛らしい環生を安心させてやれる方法を…。 まるでキスを待っている時のような顔を見て、ふと思いついた。 この状況を打開するにはキスだ。 『秀臣さんとキスしてると、あっという間に時間が過ぎちゃう』 前に環生と過ごした時、環生はそう言って喜んでいたはずだ。 「ただ待つのも辛いだろう。こうしてキスをしていれば多少は気も紛れる」 何度か唇を重ねると、環生は嬉しそうにそれを受け入れた。 このまま雨が止むまでキスを続けるつもりだった。 だが、環生の唇の柔らかさに夢中になって、気づけば首筋や鎖骨にも口づけていた。 「久しぶりだからちょっと照れちゃう」 「あぁ。怖がる環生には悪いが、雷には感謝している。そうでもないと、なかなか一緒に過ごせないからな」 最近の環生は柊吾の部屋に入り浸りで、全然俺の部屋へ来ない。 俺と賢哉(けんや)に遠慮しているのはわかるが、環生との事は賢哉公認だ。 しかも賢哉も環生との時間を楽しんでいるから、お互い様だ。 もしかしたら、俺よりも濃密な時間を過ごしているかも知れない。 賢哉が最近布団を買い揃えた事も知っている。 環生とセックスするための専用の布団だ。 シーツは環生に似合いそうな淡いイエローベースのナチュラルな小花柄。 可愛い環生を寝かせたらまるで花畑で昼寝でもしている天使だ。 きっとその布団で環生を愛でているに違いない。 「秀臣さんからも誘ってくれたら、もっと部屋に行きやすかったよ…」 淋しそうな環生の態度にハッとなった。 環生に触れる大義名分を探していないで、俺からもっと積極的に誘うべきだった。 環生が俺の部屋へ来たくなるように。 環生を歓迎している事がわかるように振る舞えばよかったんだ。 努力を怠った俺が悪かったのだと気づいた。 「すまない、環生。言葉が足りなかった」 「ううん、俺こそごめんね。俺が勝手に遠慮してただけだし、秀臣さんが恥ずかしがって声をかけられないってわかってたのに…淋しくて意地悪言っちゃった」 許してくれる?…と、唇を寄せてくるから、きつく抱きしめて奪うように口づけた。

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