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第10章 第18話
それから一週間くらいは時々雷が鳴った。
空が暗くなると秀臣 さんが一緒に過ごしてくれるようになった。
つい甘えてしまって、結局雷を克服できたのかわからないまま梅雨明けを迎えた。
絵の具で塗ったような青い空、ソフトクリームみたいに真っ白な入道雲、蝉の鳴き声。
ジリジリ照りつけるような日差し。
カブトムシの幼虫も日に日に大きくなっていく。
そんなある日のお昼過ぎの事。
拭き掃除をしていたら固定電話が鳴った。
『はいはい、今出ますよー』なんて返事をしながら出たら、相手は香川 さんだった。
『こんにちは、環生 さん』
「こ、こんにちは、香川さん。先日はありがとうございました」
『こちらこそ。すぐに連絡したかったんですが、少し仕事が立て込んでしまって。また環生さんに会いたいと思って電話をしたんです。週末、2人でぶどう狩りにいきませんか?』
香川さんの急なぶどう狩りのお誘い。
『次』があると思ってなかったから驚いた。
香川さんが選んでくれた農園は、時間無制限でぶどう狩りが楽しめて、お弁当の持ち込みも自由。
公園もあるから散歩もできるし、併設しているカフェのサンドイッチも美味しいんだって。
「い、いいんですか?お出かけの相手が俺で…」
『私は環生さんとゆっくり過ごしたいと思って電話をしました。環生さんはどうですか?』
そんな事を言われたら舞い上がってしまう。
断る理由なんてどこにもない。
「行く!行きたいです」
『決まりですね。では土曜日の10時にお迎えに行きます』
香川さんの電話は雑談なしの用件のみ。
でも、俺にとっては嬉しいひと時だった。
夜はいつものように柊吾 のベッドに潜り込んだけど、俺はぶどう狩りの事で頭がいっぱい。
お昼ご飯は併設カフェのサンドイッチに決まったから、俺は裏方に徹する事にした。
何を用意しようかな。
レジャーシートやお手拭き、ビニール袋、バトミントン…2人で楽しく快適に過ごせるアイテムをあれこれ考えていると、隣で横になってる柊吾が俺の鼻先をつっついた。
「よかったな、デートに誘われて」
「うん…。ねぇ柊吾。これってデートなのかな」
「デートだろ。興味のない奴と2人きりで、1日中ぶどう狩りしないだろ」
確かに…。
わざわざ夏の暑い時に、インドア派の香川さんが出かけようって言うとは思えない。
「そうだよね…。香川さん、俺の事…特別に思ってくれてるのかな」
「さぁ、どうだろうな。俺はそいつじゃないから心の中の事はわからないな」
ちょっと突き放したような言い方をするから、それ以上は何も言えなかった。
考えても仕方ないからもう寝よう。
柊吾、腕枕してくれるかな…。
「環生はどうなんだよ」
「うん…。俺は…よくわからなくて…」
香川さんのお誘いは本当に嬉しいけど、デート気分で行って、もし勘違いだったら悲しいから。
『環生さんとゆっくり過ごしたいと思って電話をしました』なんて言われたら、香川さんを1人の男性として意識してしまう。
もともと素敵だなって思ってる香川さんを好きになってしまったら、もう引き返せない。
推しに本気の恋をするなんて不毛すぎるし、ファンとしての立場をわきまえてない気がする。
だから確信が持てるまでは素直に喜び切れない。
「その…お前が望むなら…いいからな」
「えっ、何を…?」
「だから、その…。もしそいつとイイ雰囲気になったら、俺たちの事は気にしなくていいからな」
予想もしてなかった事を言われた俺は、一瞬何が起きたのかがわからなかった。
「柊吾…どうしたの?急にそんな事…。前はキスマークつけて邪魔しようとしたのに…」
「別に…。環生がいいならそれでいいからな」
この話はもう終わりだ…と、腕枕に俺をおさめた柊吾。
俺の前髪をそっとかき分けて、おでこにキスをしてくれた。
「ありがとう、柊吾。でも…もし俺の勘違いだったら慰めてね」
「あぁ。俺たち全員で慰めてやるから心配するな。環生には俺たちがいる」
優しい柊吾は、そう言ってぎゅっと抱きしめてくれた。
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