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第10章 第27話
『これからもずっと…私の側にいてください』
香川 さんの真心が伝わってくる真っ直ぐな言葉。
大好きな香川さんと両想い。
夢みたいで嬉しくてたまらないし、世界一幸せだと思うけど、俺には話しておかないといけない事がある。
…それは保科 家の皆の事。
「俺…ずっと香川さんの側にいたいです。でも…聞いてもらいたい事があって…」
いい雰囲気や流れを変えたくないけど、ちゃんと伝えなくちゃ。
先日、カフェで会った時に保科家の住み込み家政夫だって事は話したけど、体の関係がある事は伝えてない。
でも、もし本気で俺との将来を考えてくれるなら、避けては通れない話題。
これを伝えたらきっと嫌がられると思う。
誰だって告白した相手が、雇い主一家と淫らな事をしてる事実なんて受け入れられないはず。
もし香川さんが何人かを家に住ませて、昼夜問わず行為に及んでいたら絶対に嫌だから。
自分が恋人にされたら嫌だと思うような事を俺はしてる。
せっかく好きな人に好きになってもらえたから、2人の関係を大事にしたい。
彼の意に反する事や嫌われるような事はしたくない。
でも、俺にとってはもうこの生活が『普通』になってしまったから、皆と離れ離れになるのは辛いし淋しい。
香川さんとの未来のために皆を切り離す事なんて考えられないし、皆と過ごしてきた楽しい毎日をなかった事にしたくない。
どっちかなんて選べない。
俺はどっちも欲しい。
「わかりました。環生 さんのタイミングでいいので聞かせてください」
香川さんはそう言ってくれたけど、驚かせてしまうのがわかってるから、なかなか切り出せない。
俺の言葉を待ってくれてるその沈黙が怖い。
体中が心臓になったみたいに、バクバク大きな音がする。
『…大丈夫だ、いつもの環生でいればいい』
さっき手洗い場でかけてくれた柊吾 の言葉を思い出した。
そうだ、いつもの俺でいいんだ。
上手く話そうとしたり、取り繕ったりせず、素の俺を見せよう。
自分の思ってる事を、自分の言葉で伝えよう。
深呼吸をして、レモネードを一気飲みした俺は、保科家の皆と同意の上で体の関係がある事を伝えた。
夜は誰かのベッドで眠っている事、誠史 さんや賢哉 さんとの事。
皆と暮らすようになって、自分に自信が持てるようになった事。
自分らしくいられる毎日が幸せだって事。
この先も皆と今の関係を続けたい事。
香川さんの事が大好きで、恋人にしてもらいたい事。
ワガママだとわかってるけど、それが俺の望みだという事も全部伝えた。
香川さんは驚いた様子だったけど、黙って話を聞いてくれた。
一通り話した後でいくつか質問をされたけど、隠し事をせず正直に答えた。
話し上手ではないから、上手くは話せなかったけど、一生懸命伝えた。
「…ご実家と今のお家と、帰るところがたくさんあって皆に愛されているから、環生さんは優しくて温かいんですね」
香川さんは、そう言って微笑んでくれた。
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