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第11章 第1話side.麻斗
〜side.麻斗 〜
環生 が香川 さんとぶどう狩りに出かけた。
彼に自宅の連絡先を教えて、環生との接点を作ったのは俺。
それは少し前の事。
彼から俺の店に電話があった。
内容は急ぎでもなさそうな事。
コラボレーションの仕事もひと段落していたから、わざわざ電話をかけてきた理由がわからなかった。
『環生さんはお元気ですか?』
「はい、おかげさまで。先日、香川さんによくしていただいたと喜んでいます。その節はありがとうございました」
『いえ、喜んでいただけて嬉しいです。実は環生さんの事でお話が…』
少し低くなった声のトーンに、何事だろうかと思う。
まさか環生が迷惑をかけるような事をしたのでは…と不安になる。
そんな疑いを抱いてしまうほど、環生は朝から晩まで彼に夢中だから。
『環生さんにデートの申し込みをさせていただけたら…と思っています。もしお許しをいただけるようでしたら、連絡先を教えていただきたいと思っています。ですが、これ以上環生さんに近寄るな…という事でしたら、このまま電話を切ってくださってかまいません』
彼は環生が好意を寄せている事に気づいているはず。
それを知ってデートの誘いを持ちかけてくるなんてどういうつもりだろう。
環生が気に入ったんだろうか。
それとも…。
「…どうしてわざわざ俺に?」
『大事な環生さんをお連れするんですから、まずはお家の方の許可をいただきたくて』
その一言で、彼になら環生を託してもいいと思った。
俺たちが環生を大事に思っている事も、環生の存在も大切だと認識してくれているから。
誰とどんな恋愛をするかは環生の自由だけど、個人的には幸せな恋をして欲しい。
それに、わざわざ俺に話を通すところに、彼の誠実さが感じられた。
もし内緒で環生をもて遊ぶつもりなら、SNSにDMを送ればいいだけの事。
そうは言っても、勝手に環生の携帯電話の番号を教える訳にもいかないから、自宅の電話番号を教えた。
それからはトントン拍子で今日のデートに至る。
今頃どうしているだろう…。
連絡もないし、帰っても来ないから、きっと楽しい時間を過ごしているんだと思う。
環生がおやつに用意してくれたわらび餅を秀臣 と2人で食べている時だった。
「なぁ、秀臣も麻斗も聞いてくれ」
友達とのBBQから帰ってきた柊吾 が神妙な面持ちで切り出してきた。
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