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第11章 第3話side.柊吾
〜side.柊吾 〜
夕方、お土産だと言って大量のぶどうを持って、ご機嫌で帰ってきた環生 。
きっと上手くまとまったんだろうな…と思いながら、ただいまのキスとぶどうを受け取った。
すぐに晩ご飯の支度をしようとした環生に、麻斗 は『お風呂を沸かしておいたから入っておいで』と促して、パスタを作る準備を始めた。
前に環生が美味しいって言ってた舞茸とツナの和風パスタだ。
風呂上がりの環生は、麻斗のパスタを『美味しい』と言っておかわりまでペロリと平らげた。
藤枝 さんも呼んで、皆でデザートのぶどうを食べていると、環生が『聞いて…』と、話を切り出してきた。
「あのね、俺…香川 さんとお付き合いする事になったの」
照れくさそうだけど、幸せそうな環生の笑顔。
やっぱりそうか…。
上手くいってよかったと思う反面、淋しさも感じた。
何となく心の準備はしていたが、実際に環生の口から聞くと、胸にドスンと響いた。
さり気なく皆の様子をうかがうと、一見嬉しそうな顔をしていたが瞳の奥に淋しさが混じっていた。
「おめでとう、環生。よかったね」
真っ先に麻斗が声をかけた。
秀臣 と藤枝さんもそれに続く。
「…よかったな、環生」
自分から予想もしてなかったかすれ声が出て驚いた。
心配そうな環生が差し出す麦茶を一気飲みして初めて、喉がカラカラに渇いていた事に気づいた。
「ありがとう…嬉しい」
幸せそうに微笑んだ環生は、今までと変わらない生活をしたいと言った。
この家で暮らして、この家で働きたい。
俺たちと体の関係込みで仲良くしたい。
基本的に『今までの生活+恋人』が理想で、相手もそれを了承しているらしい事も。
それが叶うなら、環生と暮らしたいと思っている俺たちの望みも叶う。
いきなり離れるのは辛くても、恋人がいる環生を目の当たりにすれば少しずつ『環生離れ』をしていけると思った。
…けど、そんなうまい話があるだろうか。
環生がどうやって話をしたのかはわからないが、もし俺が環生の恋人だったら、他の男たちとの同居やセックスなんて認めないぞ。
それとも、環生の事が好きすぎて嫌だと言えなかったのか…?
違う男に抱かれる環生に興奮するヤバイ奴なのか?
考え出したらキリがない。
情報が少なすぎて、判断もつかない。
「基本的には環生の好きにしたらいい。父さんの考えもあるだろうし、今後の事は追々決めていこう」
秀臣の提案に皆もうなずいた。
皆それぞれ、環生の発言に思うところがあったんだろう。
どういうつもりなのか、相手の男の話も聞いてみたいと思った。
「うん…、わかった。いきなりこんな無茶な事言い出してごめんね。…でも、これが俺の望みなの。俺は皆も香川さんも大好き。誰かを選んで誰かを失うのは嫌。誰とも離れたくないよ」
出た、頑固環生。
普段は皆に合わせたり、可愛くワガママを言ったりするのに、時々強めに自己主張をする。
こういう時の環生は何があっても譲らない。
もう心を決めているから、何があっても自分の望みを押し通すつもりだ。
「環生は可愛いね、本当に」
察したらしい麻斗が柔らかく笑った。
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