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第11章 第5話side.柊吾
〜side.柊吾 〜
俺が拒まなかったのをいい事に、環生 は当たり前のように俺の部屋へやってきて、何事もなかったようにベッドに潜り込んだ。
いつものようにアラームをセットして、スマホを充電ケーブルにセットした環生は、寝心地のいい体勢を探し始めた。
「お前…俺のベッドに来ていいのか?」
「えっ、どうして?」
「いや…、その…彼氏から電話かかってくるかも知れないだろ」
「今日はもうかかってこないよ。さっきおやすみなさいの連絡したから」
だからもう大丈夫…と、腕枕をして欲しそうに体を寄せてくる。
俺だって腕枕をしてやりたい。
俺のベッドにいる間だけは環生を離したくない。
でも、あの男の顔がチラついてできなかった。
「…恋人がいる俺は嫌?もう…腕枕もキスもしてくれないの?」
淋しそうな環生の瞳。
そんな顔をされたら、全身くまなくキスしてやりたくなる。
でも、環生の相手に本心を確認するまでは手は出さない。
俺はその衝動をグッとこらえた。
「環生は嫌じゃない。でも…彼氏がいるのに他の男とそういう事するのは浮気だろ…」
「柊吾との事は浮気じゃないよ。柊吾の腕枕は俺の日常。朝起きたら『おはよう』って言うのと同じくらい普通の事だよ」
環生の中ではそういう位置づけでも、相手の男からしたら違うだろ…。
好きな男の気持ち、考えてやれよ…。
「香川 さんと俺との事…気づかってくれてありがとう。柊吾が『浮気はダメだ』って思ってるのもよくわかったよ。でも…俺とは今まで通りがいい。だって俺、これからも柊吾とくっつきたいし、エッチな事もしたいよ」
「お前がそうしたくても、相手の男もそれを望んでるとは限らないだろ」
「香川さんの事は大丈夫。香川さんも俺も今まで通りの生活を望んでるよ」
そんなの綺麗事だろ…。
今まで通りになんて無理に決まってる。
絶対相手の男だって嫌だろうし、環生だって恋人と俺たちとの間の板挟みになって困るに決まってる。
夢みたいな幻想を抱く環生に思い知らせてやりたくて、いつもより乱暴に組み敷いた。
細い手首をつかんで、逃げられないように固定した。
「…なら、いいのか?両想いになった記念日の夜に俺に抱かれても。あの男は本当にそれを望んでるのか?」
環生は驚いた顔で俺とつかまれた手首を交互に見て、何度か瞬きをした。
「お前もそんな大切な日に他の男にキスされて、イカされて、中出しされてもいいのかよ」
環生に拒まれたくない気持ちと、俺に体を許して未来の環生が苦しむくらいなら、そうなる前に拒んで欲しい気持ち。
自分でも何がしたいかわからなくなった。
「…俺はいいよ。いつもみたいに優しくしてくれるなら、俺は柊吾に抱かれたいって思うよ」
環生は戸惑ったそぶりを見せる事もなくそう言い切った。
環生の心は決まってるから、最初から主張がブレない。
そんな環生相手に、何を言っても無駄な気がした。
「…っ…、とにかく今日はだめだ。あいつに会って話を聞いてからだ」
一方的に話を打ち切ると、環生の目つきが変わった。
見た事もない鋭い目つきだった。
マズイ…怒らせた…!
そう思った瞬間、俺は腹を抱えてうずくまるハメになった。
「柊吾のバカ!大っ嫌い!!」
俺の下でめちゃくちゃに暴れた環生は、俺の腹に蹴りを一発お見舞いして、枕をつかんだ。
「香川さんが柊吾に『いいよ』って言ったらいいの?俺の気持ちより、香川さんの気持ちを優先するの?俺の気持ちや体は俺のものなのに…!」
『柊吾のバカ』を繰り返しながら、両手でつかんだ枕で俺をめったうちにする。
「ちょ、何するんだよ、環生」
「知らない、柊吾のバカ!」
環生は俺の顔面に枕を思いっ切り投げつけると、ドスドスと足音を立てて、ドアの方へと向かう。
「待て、環生…!」
「やだ、待たない!」
環生がドアを開けると、そこには麻斗 が立っていた。
「あ、麻斗さん…」
「…すごい物音と大声がしたから様子を見にきたんだけど…。一体、何の騒ぎ?」
麻斗は呆れたような困ったような顔で俺たちを見た。
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