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第11章 第8話

それから数日たった。 『香川(かがわ)さんと話をするまで腕枕やキスは我慢する』って約束はまだ守られたまま。 そんな約束をしていても、いい雰囲気になったらしちゃうんだろうな…って思ってたけど甘かった。 柊吾(しゅうご)は一緒に眠ってはくれるけど、『環生(たまき)の相手に会うまではダメだ』って、頑なにエッチな事をしてくれない。 しかも、今までしてた『おはよう』や『行ってきます』のキスもお預け。 柊吾は俺に甘いから、俺が甘えたらしてくれるって思ってたけど、全然効果なし。 自分が決めた本当に大切な事はまっすぐ貫き通すタイプなんだ…と、柊吾の魅力を再発見した今日この頃。 秀臣(ひでおみ)さんはどうしていいかわからないらしく、毎日のように賢哉(けんや)さんの家へ行ってしまう。 麻斗(あさと)さんは仕事で留守がち。 あの日以来、香川さんとは会えてないけど、毎日連絡を取っている。 でも、それも20時まで。 それ以降は保科(ほしな)家の皆と過ごす時間だからって。 皆、お互いがお互いに気をつかっていて、俺の気持ちなんてそっちのけ。 大切にされてるからありがたい事だし、全部俺のワガママだってわかってるけど、淋しいものは淋しい。 最初は、もっとかまって欲しいな…って思ってたけど、すぐにあきらめた。 誰かに何かしてもらうのを待ってるだけより、自分からも動いた方が幸せに近づけるはず。 とりあえずこの依存体質を何とかしなくちゃ…と思って始めたのはマッサージの勉強。 ネットで配信される動画や買った本を見ながら少しずつ。 これなら疲れてる皆を癒やしてあげられるし、自然に触れ合える。 諸々動機が不純すぎて自分でも呆れるけど、何かに熱中できる物が欲しかった。 一度違う部屋で眠ったら、もう一緒には過ごしてくれない気がして、今日も柊吾のベッドに潜り込む。 難しそうな法律の本を読む柊吾の隣で、チャンネル登録をしているお気に入りのマッサージ師さんの新着動画を見る。 マッサージ師さんはビジュアルも声もいいし、手がキレイな俺好みのタイプの男性。 せっかく見るなら好きな雰囲気の人がいい。 彼の動画はカップルにオススメのマッサージがほとんど。 マッサージしながら自然にイチャイチャな流れに持っていけるような内容。 マッサージをしている時の手の動きが何だかエッチで、ついつい見入ってしまう。 どうしよう…ちょっとムラムラしてきちゃった。 自分がマッサージされてる訳でも、してる訳でもないのに。 最近してないからだと思うけど、それが柊吾にバレるのも恥ずかしいし、香川さんっていう素敵な恋人がいるのに、香川さんより後に知った人にときめくのは後ろめたい気持ち。 慌てて動画を止めてスマホを手離すと、柊吾がニヤニヤしていた。 「何だよ、エロ動画もう終わったのか?」 「ち、違うよ!マッサージの動画だもん…」 そもそも柊吾がエッチな事してくれないから悪いんだ。 柊吾のにおいや温もりを感じるとムラムラしちゃうエッチな体になったのは柊吾のせいなのに。 柊吾が俺の体を変えたのに。 責任取ってよ…と思いながら柊吾に背を向けて掛け布団にくるまる。 性欲静まれ、静まれ…って祈りながら。 嫌なら自分の部屋で眠ればいいし、お風呂でこっそりオナニーすればいい。 でも、1人で眠るのも、するのも淋しくてその気になれなかった。 「眠くなったからもう寝るね。おやすみ」 本当は全然眠くない。 エッチな事を考えていたら、眠気がどこかへ行ってしまった。 でも、寝なくちゃ。 起きてたら欲しくなっちゃう…。 俺は体の疼きを封印するつもりで、ぎゅっと目を閉じた。

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