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第12章 第4話
散歩を終えて家に戻ると、母さんが香川 さんと料理がしたいって言い出した。
いくら香川さんのファンで、香川さんとの思い出作りをしたいからって、お客様にご飯を作らせるなんて…と思ったけど、香川さんは快く引き受けてくれた。
俺の香川さんなのに…。
俺だってまだ香川さんと料理した事ないのに。
いいなぁ…。
そう思いながらキッチンへ行く2人を見送る。
でも母さんは大喜びだし、香川さんも楽しそうだし、父さんはそんな母さんを見て嬉しそうだから、それでいい気がしてきた。
テーブルを拭いて、食器を並べるのは父さんと俺の係。
香川さんの分の箸や茶碗も用意してあって驚いた。
しかも香川さんとお揃いになるように、俺の分まで新しくなってる。
きっと今日のために母さんが買い揃えてくれたんだ…。
「母さんのあんなに楽しそうな姿、久しぶりだ」
「えっ、どうして?」
推し活も楽しんでるみたいだし、友達も多いし、割と朗らかな性格だと思っていたから。
「私にも詳しく言わないが、更年期障害だそうだ。ホルモンバランスが乱れて疲れやすかったり、気分が落ち込んだりする女性特有のものらしい。時々寝込む日もあるくらいなんだ」
「そうなんだ…」
更年期障害、ホルモンバランス…。
聞き慣れない単語ばかり。
今までの人生で身近にいた女性はおばあちゃんと母さんくらい。
2人ともあまり自分の体調の事は言わなかったし、男の人が好きな俺は女性の体の事を知る機会もなかった。
自分から知ろうともしなかった。
あの頑張り屋で我慢強い母さんが寝込むくらいなら、きっと大変なんだろう。
そう言われれば目の前の父さんも白髪やシワが増えた気がする。
いつまでも親は元気なものだと思ってたけど、親も年老いていくんだなぁ…と思った。
家に帰ったら更年期障害について調べてみよう。
母さんが少しでも楽に生活できるアイテムをプレゼントしようと決めた。
晩ご飯は机いっぱいに俺の好物が並んだ。
野菜たっぷりオムレツ、餃子にポテトサラダ、きんぴらごぼう、蒟蒻の煮物、手作りプリン。
どれも母さんの手料理で好きなメニューばかり。
母さんは香川さんに俺の好物を伝えてくれたんだ…。
香川さんが俺のためにご飯を作ってくれたんだ…。
2人の気持ちが嬉しい。
さっきヤキモチをやいてしまった自分が恥ずかしくなった。
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