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第12章 第7話
〜side.恭一 〜
翌朝、肩に何かが触れた気がして目が覚めた。
目を開けるとすぐ側には環生 さんの寝顔。
天使のような愛らしさに、一瞬呼吸をするのを忘れてしまった。
昨夜の環生さんは、私の腕の中で眠りについた。
もっとおしゃべりしたいと頑張っていたけれど、次第に細くなっていく目も、少しずつ聞こえ始める寝息も全てが可愛らしくて、幸せな気持ちで寝顔を見つめていた。
本当は一晩中ずっと抱きしめていたかったけれど、そのまま眠ったら環生さんを押し潰してしまいそうで…。
環生さんが完全に眠ったタイミングを見計らってそっと体を離した。
風邪を引かないように布団をかけて、手だけ繋いで目を閉じたはずだった。
枕元に置いておいたメガネをかけて様子をうかがうと、どこかのタイミングで環生さんが私の布団まで移動してきたようだった。
身動きした瞬間に私の肩に触れたのかも知れない。
わざとなのか無意識なのかはわからないけれど、どちらでも可愛らしい。
私の腕に寄り添うようにしてスヤスヤ眠る環生さん。
夜は暗い上に裸眼だったから、あまり見えなかったあどけない寝顔。
起こしてはいけないけれど、触れてみたくなる。
その柔らかそうな頬や可愛らしい唇に。
昨日の夜、本当はキスもしたいと思った。
環生さんも先を望んでいる様子だったから、流れに身を任せたらそうなっていたのかも知れない。
けれど、解禁日に早速手を出すのは大人気ない気がして自粛した。
初めてのキスはもう少し先の楽しみにしたい。
2人きりで過ごす記念日かイベントの日にゆっくりと…。
「ん…」
モゾモゾと身動きした後、環生さんがゆっくり瞳を開けた。
「おはようございます、環生さん」
「…っ、ひゃあっ!!」
素っ頓狂な声を上げた環生さんは、慌てた様子で私から離れてしまった。
「環生さん?」
「お、おはようございます…」
恥ずかしそうな環生さんの側へ行こうとすると、また距離を置く。
少し近づくとオロオロしながら少し後ろへ。
何度かそれを繰り返すと環生さんはすぐに壁まで行ってしまった。
「捕まえましたよ、環生さん」
どうして逃げるんですか?…と、手を握って問いかける。
「お、起き抜けに至近距離の香川さんは刺激が強すぎて…」
ドキドキします…と、可愛らしい事を言うから、少しだけ意地悪をしてみたくなる。
「刺激が強いとどうなるんですか?」
手首の内側にそっと唇を寄せると、環生さんが『ひゃあ』と小さな悲鳴をあげる。
「…ビ、ビックリして心臓が止まっちゃうかも…」
「それはいけませんね。でも、実を言うと私も環生さんの寝顔を見た時、呼吸を忘れて見惚れてしまいました」
「同じ…ですね」
環生さんが、ふふっと笑う。
「そのようですね」
私も一緒になって笑う。
「…もっと…一緒に過ごしたら慣れると…思います」
たぶん…と、自信なさげな様子。
「そうですね。とりあえずお互いに鼓動や呼吸が止まらない程度には慣れましょうか」
また2人で笑って、どちらからともなく手を繋ぐ。
照れる環生さんを抱き寄せると、嬉しそうに身を預けてくれた。
「今日も大好きですよ、環生さん」
「俺も…香川さんが大好きです」
これほど温かな気持ちになれるなら、これから先は朝が待ち遠しくなるだろう。
そう思うほど、初めて一緒に迎えた朝は穏やかで幸せなものだった。
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