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第12章 第8話side.恭一
〜side.恭一 〜
朝ご飯をご馳走になった後、ご両親に見送られて駅のホームへ。
お母さんが持たせてくれたお土産はかなりの重さ。
電車の中で食べる用の手作りお弁当も入っていた。
『寒くなるから温かくするのよ』
『ちゃんとご飯を食べるのよ』
『体に気をつけて元気でね』
『困った事があったら連絡してね』
『またいつでも香川 さんと帰ってらっしゃい』
お母さんは駅へ向かう道中でも、改札でも環生 さんの心配ばかり。
もう子供じゃないから…と、恥ずかしそうにする環生さん。
目の当たりにして初めて、世の中の親はこんなにも子供を大切に思っているのだと実感した。
ご両親は、私にも本当の親だと思って気軽に頼ってねと優しい言葉をかけてくれた。
ホームで電車を待っていると、環生さんがポツリとつぶやいた。
「もう…いつまでたっても子供扱いばかり」
「いくつになっても環生さんは可愛い我が子なんですよ。ご挨拶できて本当によかったです」
「…ありがとうございます、香川さん。俺の事も家族の事も大事にしてくれて…」
「環生さんも、環生さんのご両親も私の大切な人ですから」
そう伝えると、照れて頬を染める愛らしさ。
「そんな大切な環生さんの手を繋いでもいいですか?」
「えっ、あ…はい…」
左手でそっと環生さんの手に触れる。
指を絡めてきゅっと握ると、環生さんからも握り返してくれた。
「恋人の香川さんと本物の恋人繋ぎ…」
そう言って幸せそうに微笑む環生さん。
私と手を繋いだだけなのに。
胸がじんわりと温かくなって、どうしようもなく幸せだと思った。
そんな2人の世界を楽しんでいると、すれ違う男性の荷物が私の右手の甲に当たってしまった。
私にも非があったと思い、すぐに謝罪しようと思ったけれど、男性は何事もなかったかのように立ち去ってしまった。
「だ、大丈夫ですか?香川さん…」
「大丈夫です。少し赤くなっただけで、さほど痛みもありません。環生さんに怪我がなくてよかったです」
これからは環生さんに夢中になり過ぎないよう、もう少し周りを見なくては…。
そう考えていると、環生さんは自分が右側に立つと言い出した。
心配そうな…泣きそうな顔をして。
「利き手が使える方が都合がいいですし、もしもの時に環生さんを守れますから」
そう伝えても環生さんは納得しない。
「俺だって香川さんを守りたいんです。香川さんの右手は…皆が喜ぶ料理を生み出す大切な手だから」
守らせてください…と、私の右手を両手で包み込む環生さん。
環生さんか自分の右手かだったら、私は迷わず環生さんを選ぶけれど、環生さんも同じように私の事を大切に思ってくれているのだと知った。
「ありがとうございます、環生さん」
「ごめんなさい…。香川さんの気持ちを知りながら自分の意見を押し通すなんて…子供みたい」
「環生さんの発言は私を思っての事です。相手を思いやる事ができる素敵な大人ですよ」
「ありがとうございます…」
はにかむ環生さんの姿は尊いの一言だった。
電車に乗ると、環生さんはすぐにウトウトし始めた。
きっと疲れたのだと思う。
ご両親と私との間に入って、あれこれと気を配ってくれたから。
そう思っていたら、環生さんが私にもたれかかってきた。
肩や二の腕で感じる環生さんの愛おしい温もり。
眠りにつくと無意識に温もりを求めるところが可愛らしい。
きっと保科 家の皆さんにもたくさん可愛がってもらっているんだろう。
なるべく背筋を伸ばして座高を高くする。
環生さんが首を痛めないように。
それから風邪をひかないよう、環生さんにスーツの上着をかける。
上着の下でそっと手を握った。
手を繋ぐところを見せびらかしたい気持ちと、2人だけの秘密にしたい気持ち。
呼吸のタイミングがバラバラだと落ち着かないので、そっとペースを合わせる。
2人の一体感が心地いい。
環生さんの程よい重みと、優しい温もりを感じながら、のどかな車窓と穏やかな環生さんの寝顔を交互に見つめ続けた。
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