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第12章 第9話

〜side.柊吾(しゅうご)〜 今日は環生(たまき)が1泊2日で実家に帰る。 両親にアイツを紹介するらしい。 1限の講義で小テストがあるから、仕方なく環生より先に家を出た。 環生を見送った麻斗(あさと)から『環生は緊張半分、楽しみ半分で出かけて行ったよ』と連絡があった。 小テストはそれなりにやったけど、無事に電車に乗ったのかとか、上手く紹介できるだろうかとか、細かな事があれこれ気になる。 環生の事で俺がどうこうできる事なんて何一つないのに、全く講義に集中できない。 友達が話しかけてきても上の空。 そんな日に大学にいても仕方ないから、自主休講にして帰る事にした。 急いで帰った俺を待っていたのは『無』だった。 数時間前まで環生はこの家にいたはずなのに、家には何の気配もなかった。 『おかえり、柊吾』の言葉も、可愛い笑顔も、美味そうなご飯のにおいもない。 環生が普段使っているカップも食器棚に片付けられていた。 まるで環生の存在丸ごとが消えたような感覚。 部屋も静まり返っていたし、どことなく薄暗くて寒い気がした。 家に帰ってきても淋しいだけだ。 こんな事なら大学で時間を潰してきた方がマシだった。 晩ご飯時、秀臣(ひでおみ)は仕事の打ち合わせ、麻斗は仕事で留守だった。 環生が作っていった親子丼を電子レンジで温めて1人で食べた。 環生が来る前は、こんなの当たり前だったし平気だった。 親子丼だって、いつもおかわりするくらい美味いのに、今日は味気がなかった。 静けさをごまかしたくてつけたバラエティ番組も、環生の笑い声が聞こえなくて虚しいだけだった。 ダメだ、早く寝よう。 明日になれば環生が帰ってくる。 さっさと風呂に入って寝室へ。 普段のこの時間は、晩ご飯の後に環生とテレビを見ながらうたた寝する事もあるのに、今日は全然眠くない。 暇つぶしにスマホをいじるけど、何を見ても面白くない。 ふと気づいて、着信音のボリュームを下げた。 いつも環生が出かけた時は最大にするスマホの着信音。 環生に何かあった時、すぐに気づいて助けに行ってやれるように。 でも、今は恋人のアイツが一緒だ。 環生が頼るのも、環生を助けるのも俺じゃなくてアイツだ。 何やってんだ、俺は…。 俺にあるのは、ただ『淋しい』の感情だけ。 きっと環生の淋しがりやが伝染ったんだ。 環生に出会うまで、別に1人でも生きていけると思っていたのに、今はその自信がなくなった。 今頃、何してるんだろうな…。 夜は嬉しそうにアイツと寝るんだろうな…。 環生の両親に挨拶したなら色々解禁だ。 抱きしめ合ってキスでもしているかも知れない。 そのまま初夜を迎えていてもおかしくない。 環生に恋人ができた時点で、そんな日が来る事はわかっていた。 自分が環生を幸せにしてやれない以上、仕方ないと思っていたし、俺がどうこう言える立場でもない。 でも、実際その可能性がある日が来ると、胸がざわついた。 環生が1日いないだけで、この喪失感。 恋人ができた環生はもっと離れていく。 デートで留守にする事もアイツの家に泊まりにいく事もあるに決まってる。 そんな時、俺はどうしたら…。 結局どうしようもなくて、またリビングに。 環生と一緒に見た映画のDVDを見ながら酔っ払ったら、自然に眠れるかも知れない。 そう思って冷蔵庫からビールを出した。

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