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第12章 第16話
アラームで夜が明けた事に気づいた俺たち。
離れるのが名残惜しくて、5分間だけ触れ合うキスを交わしていつもの生活へ。
皆で朝ご飯を食べて、秀臣 さんは自分の部屋で仕事、柊吾 はご機嫌な様子で大学へ。
仕事帰りの麻斗 さんとお風呂に入ったら睡魔がやってきて…。
誘われるまま麻斗さんのベッドに潜り込んで、一緒に眠った。
気がついたらお昼を過ぎていて、慌ててお昼ご飯の月見そばを作った。
柊吾が帰ってくる前に家事を片付けておきたくて、大忙しで洗濯や掃除をしていると、スマホが誠史 さんからの着信を告げた。
誠史さんが電話をくれたのは、俺がメールをしたから。
『話したい事があるから、手が空いている時に電話してね』って送ったから。
俺が話したかったのは香川 さんの事。
最初は、誠史さんが帰国した時に、顔を見て直接伝えようと思っていた。
でも、何かのキッカケで俺が話すより先に誠史さんに伝わってしまうのもよくない気がする。
そう思い直した俺は、とりあえず電話で伝える事にした。
「はい、環生 です」
『やぁ、可愛い環生。元気にしてるかい?』
「うん、元気だよ。誠史さんは?」
久しぶりに聞く誠史さんの優しくて渋い声。
しばらく会ってなかったし、声も聞いてなかったから何だか懐かしい感じ。
『環生に会えないのは淋しいが、それなりに元気にやっているよ。それよりも話したい事を直接聞いてやれなくて悪いなぁ』
「…ううん、電話をくれてありがとう。…あのね、俺…誠史さんに会ってもらいたい人ができたの」
『そうか、ついに環生にもそんな人ができたんだなぁ』
「…驚いた?」
『いや、いつかそんな日がくると思っていたよ。よかったなぁ、環生』
「うん…ありがとう、誠史さん」
『なるべく直近で帰れるようにしよう』
「…いいの?」
『もちろんだ。可愛い環生をよろしく頼むと伝えないといけないからなぁ』
電話越しの誠史さんはすごく嬉しそう。
その声に胸がギュッとなる。
俺は誠史さんの何でもないし、実際に祝福してもらえなかったら悲しいけど、あまりにあっさりしてるから少しだけ淋しい。
優しい誠史さんは俺の幸せの邪魔になると思って、少しずつ離れていってしまうから。
今度会えても、誠史さんは恋人がいる俺を抱こうとはしない。
今までみたいに、俺に会うためだけに帰って来てくれなくなる。
それが…淋しい。
「…誠史さんは…淋しくないの?」
どうしても我慢できなくて聞いてしまった。
勝手に恋人を作ったのは俺。
恋人ができた報告をしたのも俺。
それなのにこんな面倒な事を聞いたら、忙しい誠史さんを困らせるだけなのに。
『環生は可愛いなぁ』
電話越しの誠史さんは少し笑った気がした。
『淋しくない訳がないだろう?だが、ここで淋しいと言ったら環生が不安になる。こんな大切な時くらい格好をつけさせて欲しいなぁ』
「本当?本当にそう思ってる?」
『あぁ、本当だとも』
その言葉が優しい嘘でもかまわない。
誠史さんが想ってくれてるって勘違いしたままでいさせて欲しい。
誠史さんに愛されてるって思い込んでいたい。
『恋人ができても、環生は可愛い環生のままだ。またお土産をたくさん買って帰るよ』
「嬉しい…ありがとう。会えたらまたぎゅってしてね…」
急に誠史さんが恋しくなった。
顔を見て、本当に誠史さんが何を思ってるのかが知りたくなった。
大切な香川さんがいるけど、変わらずに抱いて欲しいって伝えたくなった。
『環生は欲張りだなぁ。将来を約束した恋人がいるにも関わらず、俺にまで愛されようとする』
「…ワガママ言ってごめんね。でも俺…」
『そんな愛されたがりの環生も最高に可愛いなぁ』
さっきまで軽い感じで話してたのに、『今すぐ帰国して環生を抱きしめたくなる…』と、囁く声は甘くて低いトーン。
布団の中でイチャイチャしてる時の声みたいだった。
きっと俺を喜ばせたくて、わざとそうしてくれたんだと思う。
俺が『誠史さんは変わらず俺を可愛がってくれる』って安心できるように。
「ありがとう、誠史さん。会えるの楽しみにしてるね」
『俺も楽しみにしているよ、可愛い環生』
可愛い環生…。
今の電話だけで何回言ってくれただろう。
こんなにハイペースで『可愛い環生』って言ってくれるのは誠史さんだけだと思う。
誠史さんの色んな気持ちが『可愛い環生』に凝縮されてるんだと思うと本当に幸せ。
俺は温かな気持ちで電話を切った…。
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