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第12章 第24話side.柊吾

〜side.柊吾(しゅうご)〜 「…ちょっとはあったかくなったか?」 「…まだ…もうちょっと」 耳もあっためて…って言うから、そっと唇を寄せた。 「俺…知らないから…」 俺の腕の中で環生(たまき)がポツリと言った。 「え…?」 「柊吾の事情なんて知らない。俺は柊吾から離れたつもりもないし、離れて欲しいなんて少しも思ってない。柊吾が勝手にモヤモヤして、勝手に離れようとしてるだけだよ…」 そう言って俺に甘えるように体を寄せてくる。 環生の主張は何一つ間違ってなかった。 「俺は恭一(きょういち)さんの恋人だけど…柊吾には忘れられない恋人さんがいるけど…そんなのどうでもいい。俺は柊吾と仲良くしたい。今までと同じが無理なら、無理じゃない関係でいられるようにしようよ。それもダメなの?俺たちその程度の関係なの…?」 淋しいよ…と、泣きそうな顔をするから、力いっぱい抱きしめた。 環生の気持ちに胸が熱くなった。 俺が逃げている間も、環生は俺と上手くやっていける方法を模索していたんだ。 まだ俺の事を必要としているんだ…。 「環生…」 「何」 「悪かった。今回のは完全に俺が悪い」 「…今回『も』でしょ。恭一さん関係で柊吾とケンカする時は、全部柊吾が悪い。俺は変わらず柊吾と仲良くしたいって言ってるのに」 プウッと頬を膨らませてスネる環生。 今日はなかなかのスネっぷりだ。 どうやってご機嫌取りをしようか。 抱きしめて、キスをして、話を聞いて…。 環生の好きなケーキと、風呂上がりのマッサージ一週間のオプションで機嫌を直してくれるだろうか。 それとも丸ごと1日環生の仕事をかわればいいだろうか …。 そんな事を考えていると、環生が満足そうに笑っていた。 「何だよ」 「不安になったり、淋しくなったりしてモヤモヤしたのは嫌だったけど、それだけ柊吾が俺の事好きだってわかって嬉しかった」 俺に好かれてるのをわかっててニヤニヤするから面白くない。 でも、ニヤニヤする環生も可愛いんだ。 「好きって…。別に恋愛の好きとかじゃないぞ。さんざん俺に甘えてたくせに、彼氏ができた途端いきなりキャラ変したからついていけなかっただけで…」 苦し紛れの言い訳。 環生には全部お見通しのはずだ。 結局環生には敵わない。 「うん…わかってる。…でも忘れないで。俺は柊吾をひとりぼっちにしないよ」 そう言って愛おしそうに俺の頬を撫でた。 「俺より淋しがりやの柊吾を1人にはしない」 さっきまでのからかうような口調はどこかに消えていた。 真剣な眼差しで俺を見つめていた。 母親に置いて行かれた事も、恋人に先立たれた事も知っている環生が紡いだ言葉。 あぁ、環生は本気で俺を1人にしないつもりだ。 俺の心の支えであろうとしてるんだ…。 「ありがとな…環生」 普段は甘えん坊で泣き虫で、マシュマロみたいにほわほわしているくせに、本当は誰よりも強いんだ。 でも、俺にはわかる。 環生の『1人にはしない』には『俺の側にいる』と『だから柊吾も側にいて』が混じっている事に。 淋しがりやの環生だって俺を頼りにしたいんだ。 きっと俺たちは一生離れられない関係なんだ。 例えどんなに俺たちを取り巻く環境が変わっても、環生と俺は何だかんだでずっと側にいるんだろう。 「俺も…環生を1人にしない。何があってもだ」 「…よかった。ありがとう、柊吾」 幸せそうに微笑んだ環生は、今日一番の笑顔だった。 説明のつかない関係性の俺たちだけど、それでいい。 俺たちは家族と恋人の間のようなこの何とも言えない距離感が心地いいと思ったんだ…。

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