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第13章 第13話
冬休みだった柊吾 も新学期が始まって、大学に通い始めた。
買い物から帰ってきたら、郵便受けに入っていた宅配便の不在表。
出かける時は秀臣 さんがいたと思ったけど…もしかしたら、お隣の賢哉 さんの家に行ったのかも。
忙しい配達員さんに迷惑をかけちゃったな…と思いながら宅配ボックスを操作すると、2か所の扉が開いた。
あれ、何だろ…?
1つは秀臣さん宛の段ボール箱、1つは宛名のない紙袋だった。
不思議に思いながら部屋へ持って帰った。
買ってきた食料品を冷蔵庫へ片づけてから、紙袋の中をのぞいた俺は驚いた。
『愛している環生 さんへ
Merry Christmas
夜遅くなってしまったので、声を掛けずに帰ります。
今度会えた時はたくさん笑顔を見せてください。
恭一 』
中にはメッセージカードと、雪だるまの小さなスノードームとリンゴの香りのハンドクリームが入っていた。
恭一さん、来てくれてたの…?
クリスマスの後も毎日連絡とってたのに、サプライズだから教えてくれなかったの…?
居ても立っても居られなくて家を飛び出した。
でも、俺は恭一さんの家を知らない。
今日はどこで仕事をしているのかも…。
自分から会いに行けない事がもどかしい。
急いで電話をしたけど、留守番電話。
仕事中だよね…と思っていたら、折り返しの電話があった。
『こんにちは、環生さん』
「こんにちは、恭一さん。お仕事中にごめんなさい」
『大丈夫ですよ、今は移動中です。どうかしましたか?』
テレビで聞くより優しい恭一さんの声。
それだけで涙が込み上げてきた。
「あのっ、俺…。宅配ボックスのプレゼント、今気づいて、それで…」
『直接お渡しできなくてすみません。でも、どうしてもクリスマスにお届けしたかったんです』
俺の事を考えて選んでくれたプレゼント。
俺を想って、忙しい中届けてくれたプレゼント。
恭一さんの心の片隅にでも、存在できてたんだ…。
そう思ったら、涙腺が崩壊した。
「ありがとうございます…。大事にします」
『環生さん…泣いているんですか?』
「俺…恭一さんの気持ちが嬉しくて、それで…」
『…今すぐ仕事を放り出して環生さんに会いに行きたい気分です。可愛らしい環生さんの涙を拭ってあげられない自分がもどかしい」
大好きですよ…と、囁かれたら、ますます会いたい気持ちが膨れ上がった。
今すぐ俺たち2人以外の時間が止まったらいいのに。
そうしたら、時間を気にせずたくさん恭一さんに会えるのに…。
「俺…恭一さんに会いたい…。恭一さんが好き。いっぱい抱きしめて欲しいです…」
一度口にしたら、封じ込めていた想いが一気にあふれ出して止められなくなった。
『環生さん、今夜私の家に遊びに来ませんか?』
「い、いいんですか?」
いきなりのお家へのお誘い。
ど、どうしよう…。
嬉しすぎる…!
『もちろんです。本当は初めて環生さんを家に呼ぶのはお昼間がいいと思っていたんですが…』
「…夜でもかまいません。俺…どうしても恭一さんに会いたい」
仕事帰りで疲れてる恭一さんの家に夜遅く押しかけたら迷惑だってわかってる。
本当は遠慮しなくちゃいけないってわかってる。
でも、それ以上に恭一さんに会いたい。
『わかりました。お迎えに行くのは20時過ぎると思いますので、食事は済ませておいてくださいね。それから遅くなるとは思いますが、必ずその日のうちに送り届けると、お家の方にお伝えください』
きっと夜に出かける俺が家を出やすいよう、保科 家の皆に心配をかけないよう、気を配ってくれたんだと思う。
そんな恭一さんの優しさが嬉しかった。
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