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第13章 第18話

2度めの恭一(きょういち)さんのお家。 キッチンに入れてもらうのは初めて。 神聖な場所に俺が出入りするのは申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ちが入り混じる。 さっき一緒に選んだお揃いのエプロンをつけて、恭一さん特製の和風カレーと、豆腐サラダを作る。 恭一さんの料理教室に参加するつもりでワクワクしながら横に立っていたら、野菜の切り方も炒め方も割とざっくりだった。 「料理は気軽に楽しくが基本です。特に家庭料理は毎日の事ですから」 恭一さんは優しく微笑みながら、味つけのコツを教えてくれた。 それも割とゆるっとした感じ。 レシピはあくまで目安。 その日の気分や合わせるメニュー、それを食べる人の好みで調味料の量を調整すればいいって。 恭一さんはプロだから、普段のご飯も手間暇をかけて丁寧に作ってると思ってた。 俺もしっかり頑張らなくちゃ…と気合いが入ってたから、何だか拍子抜けしてしまった。 こんなにカジュアルな感じでいいんだ…。 「がっかりさせてしまいましたか?」 少し困ったような恭一さんを見て目が覚めた。 俺は今、恋人としてではなく、ファンの1人としてキッチンに立っていた。 協力しながら仲良く一緒に作ろうともせず、勝手に浮かれて期待して、想像と違うと勝手に驚いて…。 恭一さんは俺の推しだから、ついつい神聖視してしまう。 でも、それじゃダメ。 恋人ならちゃんと恭一さんと向き合わなくちゃ…。 表の世界の住人の恭一さんと、プライベートの恭一さんは同じじゃないから…。 「ごめんなさい、恭一さん。俺…つい、ファン目線で恭一さんの事を見てしまってました」 「謝らなくていいんですよ。それは私のせいです。環生(たまき)さんの恋人としての姿よりも、テレビや雑誌で仕事をしている姿をたくさん見せてしまっているからです」 すみません…と謝る恭一さんの姿を見て、胸がギュッとなった。 全部俺が悪いのに、庇ってくれた恭一さん。 いつでも優しい恭一さん。 「少し…座りましょうか」 「はい…」 料理の手を止めて、2人で並んでソファーに座る。 さっきお茶をしたカフェより距離が近くて、心臓がドキドキし始めた。 「少し…恋人のような事をしてもいいですか?」 「は、はい…」 恋人のような事って何だろう…。 キス…?それともその先…? 大好きな恭一さんになら何をされてもいい。 むしろ何かして欲しい。 「私は環生さんが大好きです」 そっと重なる温かい手。 手の甲や頬を撫でる大好きな優しい手。 うなずいて瞳を閉じると、おでこに触れた柔らかな唇。 瞼や頬骨…それから頬。 少しずつおりてくる恭一さんの唇。 心臓の音がだんだん大きくなっていく。 嬉しいのにもどかしい。 早くキスをして欲しい。 『皆』の人気者の恭一さんじゃなくて、『俺だけ』の恭一さんを感じたい。 「俺も…恭一さんが好き。大好き…」 我慢できなくて自分から体を寄せたら、ちょっと驚いた様子の恭一さん。 優しく微笑んでそっとキスをしてくれた。 あったかいマシュマロみたいな感触。 ココアを飲んだ時みたいに心がほわっとする。 もっとしたくてぎゅっと抱きつくと、また重なる温かな唇。 何度も何度も…離れていた間の時間を埋めるようにキスをしてくれるけど、全然足りない。 今夜は2人きり。 誰にも気をつかわなくてもいい。 だから…もっと恭一さんを感じたい。 恭一さんの背中に添えた手を少しだけ俺の方へ引いた。 察した恭一さんは、後頭部に手を添えながら俺を寝かせると、遠慮がちに覆いかぶさった。 全身で感じる恭一さんの重み。 自分で誘ったくせに緊張でどうにかなりそう。 「もっとキスをしてもいいんですか?」 「…は、はい…」 返事をすると、すぐに唇が触れた。 最初はちょっと触れるだけ。 何度かするうちにだんだん触れている時間が長くなって、唇を甘噛みされて…。 舌先で合図をされたから口を開くと、温かな舌が入ってきた。 初めて感じる恭一さんの舌。 あったかくて柔らかくて幸せの味がする。 「可愛いです。私の環生さん」 恭一さんの甘い微笑みとエッチなキスに胸もお尻もキュンとなる。 舌先を丁寧に舐められたのが嬉しくて舌を絡めると、キスが深くなっていく。 いつも触れるだけの優しいキスばかりだったから不思議な感じ。 性的なイメージのない恭一さんが、こんなエッチなキスするなんて。 好奇心が勝ってしまって、目を開けた。 うわぁ、エッチなキスをする恭一さんも素敵…。 ぼーっと見惚れていると、恭一さんと目が合った。 「環生さん、そんなに見つめたら恥ずかしいですよ」 「ご、ごめんなさい…。恭一さんの顔が見たくてつい…」 「私も環生さんの顔が見たかったから同じですね」 ふふっと微笑み合ってまたキスをする。 気持ちよくて、お腹の奥がジンジンする。 このまましたいけど…どうしよう…。 自分からしたいって言うのは恥ずかしい。 『初めて』は恭一さんに求められたい。 そんな事を思っていると、恭一さんのスマホが着信を告げた。

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