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第13章 第19話
「恭一 さん…。電話…出てください」
「嫌です。出たくありません」
「…でも…、お仕事の電話だし…」
恭一さんの着信音は3種類。
俺と、プライベートの関係者、お仕事関係者で音を変えている。
この音はお仕事関係者。
「俺は…大丈夫ですから」
「……すみません」
恭一さんは名残惜しそうにキスをすると、俺から離れていった。
その背中は、もう『皆』の恭一さん。
自分で望んだ事なのに、急に淋しくなってしまった。
電話に出た恭一さんは俺がプレゼントしたペンケースからボールペンを取り出して、メモを取りながら打ち合わせを始めた。
ペンケース…使ってくれてるんだ…。
嬉しいな…と思って見ていると、時々ペンケースを撫でている。
俺の頭を撫でてくれてるような優しい手つき。
お仕事中も俺の事…想ってくれてるの…?
胸がキュンとして泣きそうになって…思わずクッションに顔を埋めた。
嬉しいけど、何だか恥ずかしいし、あぁもう…!
そのまましばらく身悶えていたけど、まだ電話は終わりそうにない。
恭一さんが申し訳なさそうに俺を見るから、『大丈夫』とジェスチャーで伝えた。
待ってるアピールをするのも、内容を聞いてる感じを出すのもいけない気がして、サイドテーブルに置いてある雑誌を手に取る。
文字を追っていると、少しずつドキドキと体の火照りがおさまってきた。
よかった…。
あのままキスを続けていたら、スイッチが入って恭一さんを求めてしまっただろうから。
まだお互いをよく知らないうちから俺のエッチぶりを100%発揮したら、きっと恭一さんは驚いてしまう。
あんまりガツガツしてるタイプじゃなさそうだから、気をつけないと。
ドン引きされて嫌われたくない。
様子を見ながら小出しにしないと。
そんな事を考えている時、ふと疑問に思った。
それって『自然』なのかな…って…。
素の自分を見せられないのは『不自然』じゃないのかな…って…。
急に心臓がバクバク音を立て始めた。
恭一さんに隠し事をしたくなくて、柊吾 たちとの事も話した。
それなのに今の俺は隠し事をしてる。
自分を偽ってる…。
隠し事をしてる事を知られたら、嫌われてしまうかも。
それならエッチな事がバレた方がいいのかな…。
考え始めたら頭の中がぐるぐるし始めた。
どうしよう、どうしよう…。
「環生 さん?」
気づいたら恭一さんが隣に座っていた。
電話…終わったんだ…。
「お待たせしました、環生さん」
もう終わりましたよ…と、優しく微笑んでくれるから、胸が苦しくなった。
「…環生さんを怒らせてしまいましたか?」
すみませんでした…と、俺の手を握る恭一さん。
「…違うんです…、恭一さんは悪くないんです。全部俺が悪くて…」
俺は自分の気持ちを全部正直に話した。
そうしないと、また恭一さんは俺を庇って謝ってしまうから。
大好きな恭一さんにそんな事させたくない。
せっかく会えたんだから『すみません』より『大好きです』が聞きたい。
「ありがとうございます、環生さん」
「そんな…お礼なんて…」
恥ずかしくてうつむいていると、恭一さんが手の甲を撫でた。
「私だって同じです。私も環生さんと深い関係になりたいと思っています。でも、2人きりになった途端すぐに…というのは軽率すぎる気がして、ずっと誘えずにいたんです」
「本当に…?恭一さんも俺としたいって思ってくれてるんですか?」
恭一さんも同じ気持ちでいてくれるなんて夢みたい。
俺だけが欲しいって思ってる訳じゃないんだ…。
「もちろんです。いつも環生さんに触れたい、抱きたいと思っています」
今もですよ…と、頬を撫でる温かな手。
嬉しくて胸がジーンと熱くなった。
「今夜…環生さんを抱いてもいいですか?」
俺…恭一さんに求められてる…。
今夜、恭一さんと結ばれるんだ…。
「はい…抱いてください、恭一さん」
俺は恭一さんの温かな手にそっと頬ずりをした。
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