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第13章 第24話

次の日の朝、目を覚ましたらふかふかのベッドの上にいた。 淡いグリーンのカバーがかかった布団、2つの枕。 そこに恭一(きょういち)さんの姿はなかった。 しまった、俺…! 慌てて寝室を出て、お味噌汁のにおいがする方へ向かう。 「おはようございます、環生(たまき)さん」 爽やかに微笑む恭一さんは、エプロン姿で朝ご飯の準備をしていた。 「ご、ごめんなさい、俺…」 初めてのお泊まりの日に酔っ払って寝こけるなんて…。 恭一さんは俺のために時間を作ってあれこれ準備をしてくれたのに。 やっとお互いの気持ちを確認できたのに。 恭一さんと仲良く過ごせるよう、保科(ほしな)家の皆も気をつかってくれたのに、全部台無しにしてしまった。 後悔してもしきれない。 情けなくて涙が込み上げてきた。 「おはようございます、環生さん」 準備の手を止めて側に来てくれた恭一さんがそっと手を握ってくれた。 「お、おはようございます…」 小さな声で答えると、嬉しそうに微笑む恭一さん。 「少しウィスキーの量が多かったのかも知れませんね。気づいたら私も朝でした」 優しい恭一さんは俺を悪者にしない。 その優しさが嬉しくて…辛かった。 「私の隣で眠る環生さんを感じられて、とても幸せでした。いつもよりよく眠れた気がします」 「俺も…よく眠れました。でも…」 本当は恭一さんに抱いて欲しかった。 恭一さんと一つになりたかった。 あふれる涙を拭ってくれる恭一さんの指先からはネギのにおいがした。 「また今度抱かせてください」 胸がツキン…と痛んだ。 恭一さんとの温度差を感じてしまったから。 『また今度』 今度っていつなんだろう…。 忙しい恭一さんに会えるのが『いつ』なのかがわからなくて、淋しいのに。 いつまでも他人のままだから、離れていても不安なのに…。 今からでも抱いて欲しい。 恭一さんのものにして欲しい。 愛されてるって自信が欲しい。 でも、先に眠ってしまったのは俺。 ムードも何もないこの状況で、そんなワガママ言える訳がない。 俺は小さくうなずく事しかできなかった。 美味しいはずの恭一さんの朝ご飯は、ほとんど味がしなかった。 食後は約束していた映画デート。 見たいって思って前売券まで買って楽しみにしていた映画だったのに、全然集中できなかった。 人気のラブストーリーだったから、お客さんもカップルがいっぱい。 上映中も手を繋いだり、時々見つめ合ったり。 皆は体の関係があるんだろうな…。 たくさん愛し合ってて、幸せなんだろうな…って思ったら、うらやましくてたまらない。 両想いになった映画の主人公にすら嫉妬してしまう。 今までお付き合いしてきた人や、保科家の皆は割と積極的なタイプだから、リードに任せるだけでよかった。 でも、恭一さんはちょっと違うタイプみたい。 どう振る舞ったらエッチな雰囲気になるのかがわからない。 そんな恭一さんは夕方からお仕事。 映画の後でランチをして、その後は特に何もないまま家まで送ってもらってデートは終了。 はぁ…どうしよう。 帰りたいけど、帰りたくない。 俺…今きっと、変な顔をしてる。 俺が浮かれて帰ってくると信じてる皆に心配をかけたくない。 皆の顔を見たら泣いちゃうと思うけど、せめて『ただいま』の瞬間だけは笑顔でいたい。 エレベーターの鏡で笑顔の練習をしながら家に帰った。 何度か深呼吸をして、心を落ち着けてから玄関のドアを開けたのに、家には誰もいなかった。 きっと秀臣(ひでおみ)さんは賢哉(けんや)さんの家、麻斗(あさと)さんは仕事、柊吾(しゅうご)は大学。 取り繕った複雑な顔を見せずには済んだけど、広い部屋にポツンとひとりぼっち。 淋しくて結局泣いてしまった。 俺は勝手だ。 自分は出かけてたくせに、家に誰もいない事が淋しいって思うなんて。 はぁ…と、ため息をついていると玄関の開く音がした。 きっと秀臣さんか柊吾だ。 慌てて涙を拭う。 秀臣さんは俺の泣き顔を見るとオロオロしてしまうし、柊吾は俺を泣かせた相手のところへ乗り込もうとするだろうから。 「お帰りなさい」 玄関に顔を出すと、そこには誠史(せいじ)さんが立っていた。

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