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第13章 第27話
「帰国した時くらい環生 と過ごさせて欲しいなぁ。お前たちはいつも環生と一緒だからいいだろう」
環生はお風呂に入ってくるといい…と、誠史 さんに促されてその場を離れた。
急いでお風呂に入って、誠史さんの待つ部屋へ。
誠史さんは壁にもたれるように座って本を読んでいた。
大人の色気を感じるシニアグラス姿に胸がときめく。
もっと側で見たくて隣に座った。
「助けてくれてありがとう、誠史さん」
「相変わらず環生はモテモテだなぁ」
こんなに可愛いから仕方ないな…と、抱きしめられる。
「きっと俺たちは遺伝子レベルで環生に魅かれて、キスをしたくなってしまうんだなぁ」
そんな事を言いながら頬にキスのプレゼント。
嬉しいけど、胸が苦しくなった。
保科 家の皆は嬉しそうにキスをしてくれるけど、恭一 さんは違うから…。
「恭一さんも…そうだったらよかったのに…」
つい、心の声が漏れてしまった。
「やはり環生が泣いていた原因は恋人か…」
「あっ、えっと…」
しまった、どうしよう。
まだ誠史さんは恭一さんと会ってない。
会う前に『環生を泣かせた男』って先入観を持って欲しくなかった。
離れて暮らす誠史さんに、不安材料は与えたくない。
「相手は環生が悲しい思いをしていると知っているのかい?」
小さく首を横に振ると、誠史さんは黙って俺の頭をナデナデしてくれた。
「環生は頑張って我慢したんだなぁ。辛かったな」
無理した俺を頑張ったと誉める訳でも、恭一さんや事を荒立てないように振る舞った俺を責める訳でもない。
ただ、俺の気持ちに寄り添ってくれた。
共感してもらえた事が嬉しかった。
「誠史さん…。俺ね、色々考えすぎて恭一さんに言いたい事が言えなかったの。それで消化不良を起こしてる感じで…」
「そうか。環生にもそんな一面があるんだなぁ」
俺の前ではこんなに素直なのになぁ…と、不思議そうな顔をする。
だって誠史さんは特別。
俺への好意を態度で示してくれるし、俺がどんなワガママを言っても優しく受け止めてくれるから。
愛されてるのがわかるから、何だって言える。
「誠史さん…俺、どうすればよかったのかな…」
「まぁ、2人の付き合い方もあるだろうから俺に最適解はわからないなぁ。ただ、不満は溜めない方がいい。例え小さな事でも、満たされなかった思いは年月と共に歪な形で育っていく。それはやがてふとしたキッカケで爆発する」
誠史さんの言葉にドキッとした。
今まさにそんな感じだったから。
最初は抱いてもらえなかった事が淋しかっただけだった。
それが短時間の間に『保科家の皆はキスしてくれるのに、恭一さんはしてくれなかった』に変わった。
今でも心のどこかで『俺の事、そこまで好きじゃないのかな…。だってなかなかメッセージの返信もくれないし、俺の誕生日もクリスマスも年末年始も会えなかった』なんてモヤモヤしてる部分もある。
このまま放置したら負の連鎖しか生まない気がする。
あぁ、ダメだ。
マイナス思考に陥って自爆しそう。
「…これは俺の実体験だよ」
随分昔の話だが…と、切ない誠史さんの声。
きっと離婚した奥さんとの事なんだと思う。
「教えてくれてありがとう、誠史さん」
「説教じみていて悪かったなぁ。だが俺は環生の幸せを一番に願っているよ」
いつも優しくて温かい誠史さん。
甘えたがりの俺の甘えたい欲求はムクムクと育ち始めた。
この状況下でも、誠史さんの温もりを求めてしまう。
「俺…誠史さんが抱いてくれたら幸せ」
お願い…と、誠史さんの背中に手を添えて、ぎゅっと抱きつきながらおねだりをした。
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