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第14章 第7話side.麻斗
〜side.麻斗 〜
今年のGWは、初めて連休を取った。
環生 とデートするために。
飲食業だから休日は忙しいし、ずっと店を開ける事が当たり前だと思っていた。
でも、仕事で忙しい恋人に会えず、淋しそうな環生を見続けるうちにふと気づいた。
俺が店を開ける事で、スタッフの家族や大切な人に、環生のような思いをさせているのかも知れないと。
身近なスタッフと、その家族や大切な人を幸せにしたい。
スタッフが幸せなら店の雰囲気ももっとよくなって、お客様にも幸せが伝わるはず。
そう考えた俺は思い切ってGWを休業にした。
せっかくの連休だから、環生とゆっくり過ごしたい。
できればエッチな事がしづらい環境で。
環生とセックス以外の楽しみ方をしたかった。
潮干狩りは人目があるし、手が砂や海水で汚れるから触れづらくてちょうどいいと思った。
豊かな自然の中でお互いを近くに感じながら、色々な話をした。
そんなひと時が楽しかった。
予想以上にたくさんとれた大ぶりのアサリ。
環生は『ボンゴレを作ろう』と大喜びだ。
温泉旅館の入浴プランは大浴場。
環生の肌を不特定多数の人に見せたくない俺は、オプションの露天風呂付きの部屋を予約した。
海風と海水で冷えた体に温泉の温もりが染み渡る。
少し温まった後は、環生が冷蔵庫から取り出したオレンジジュースで乾杯。
去年、家族で貸し別荘に泊まった時、露天風呂に浸かりながら一緒に飲んだ思い出のオレンジジュース。
覚えていてくれた事が嬉しかった。
「ありがとう、麻斗さん。すっごく楽しかった」
ボンゴレ楽しみだね…と、帰り支度をしながら微笑む環生。
俺は環生の頭を撫でながら、環生に内緒にしていたプランを口にした。
「環生、このアサリを持って香川 さんのところへ行っておいで」
「えっ…?」
最初からそのつもりだった。
環生とアサリを香川さんの家へ送り届ける前提でこのプランを立てた。
環生は合鍵をもらっているのに、香川さんや俺たちに遠慮してなかなか遊びに行こうとしない。
本当は会いたくて会いたくてたまらないくせに。
「でも、恭一 さんは今日も仕事だから…」
「環生が頑張ってとったアサリだよ。香川さん、喜ぶんじゃないかな」
ナマモノだから…とか、おすそ分けとか言えば家へ出向く口実になる。
砂と海水だらけの環生を行かせる訳にはいかないから、ちゃんとお風呂にも入れた。
お節介だとは思うけれど、俺の願いは環生の幸せ。
いくら愛し合っていてもすれ違いが重なると心は離れていってしまう。
俺の父さんと母さんのように。
離れてしまうなら、それまでの縁かも知れない。
でも、今ならまだ間に合う。
取り返しがつかなくなる前に、2人を会わせてあげたかった。
「麻斗さん、俺…恭一さんの家へ行きたい」
「いいよ。送っていってあげる」
そう伝えると、環生は嬉しそうに微笑んだ。
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