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第14章 第11話
「保科 家の皆も藤枝 さんも皆優しくて素敵だね。紘斗 さんと2人きりも楽しいって思ってたけど、家族がいっぱいなのもいいね」
皆で仲良く晩ご飯を終えた後、お風呂を済ませて俺の部屋へ来た湊世 さんは笑顔でそう言った。
穏やかな湊世さんは皆にもすぐ馴染んだ。
料理上手な湊世さんと一緒におしゃべりをしながら、オヤツのシュークリームを作った。
晩ご飯はボンゴレとラザニア、シーフードパエリア、カラフルな根菜サラダ。
どれもお店屋さんで食べるみたいなオシャレな味がして美味しかった。
レシピも教えてもらったから、今度作ってみよう。
「大勢も楽しいけど、優しい旦那様と2人きりの甘い生活も憧れるよ。紘斗さん、毎日優しくて可愛くて料理上手な湊世さんと過ごせるなんてうらやましい。俺が湊世さんと結婚したいくらい」
俺が誉めると、湊世さんは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
可愛いなぁ…。
本気で紘斗さんがうらやましい。
「ねぇ、環生 さん。香川 さんは子供…好き?」
「どうかな…。子供向けの料理イベントもやってるけど、好きかどうかは聞いた事ないよ。そういう深い話をするほど、会えてなくて…」
「そうなんだ…ごめんね」
「ううん、いいよ。どうして急にそんな事聞こうと思ったの?」
「実は…」
湊世さんは『紘斗さんには内緒ね…』と、前置きして少しずつ話し始めた。
紘斗さんとは相変わらず仲良しで、毎日が幸せだという事。
成長を見守っているカブトムシ達の成長も2人で楽しみにしてる事。
でも…最近、少し状況が変わってしまって…と、淋しそうな湊世さん。
それは、紘斗さんのお姉さんが2人めの男の子を出産して里帰りをしている事。
普段は遠くに住んでいてなかなか会えない甥っ子たちに会うのが楽しみな紘斗さんは、時間を見つけては実家に通っているらしい。
家でも甥っ子たちの話ばかり。
最初は子供好きな紘斗さんも、甥っ子たちも可愛いって思っていたけど、日に日に苦しくなってきたそうだ。
自分は男で、紘斗さんの子供を産めない。
紘斗さんの家族を増やしてあげられない。
一生あんなに幸せそうな顔をさせてあげられない。
俺と結婚しない方がよかったのかも…って、自分を責めるようになってしまったとの事。
今日も本当は出張じゃなくて、実家に泊まりに行っているらしい。
お姉さんは産まれたばかりの赤ちゃんのお世話にかかりきり。
祖父母にあたる自分の両親もヤンチャ盛りの上の子の面倒を見るのは大変そうだから…と。
同じ『受け』の立場だから、少しだけ湊世さんの気持ちがわかるような気がした。
もし、俺が湊世さんと同じ立場だったら、恭一 さんの遺伝子を途絶えさせてしまっていいのかな…って思うかも知れない。
仮に俺が女性でも、100%授かる保証はないし、恭一さんは子供を望まないかも知れないから何とも言えないけれど。
「家族と仲良くしないでって言えないし、辛いね」
「そうなんだよね…。そんな事言ったら紘斗さんを困らせるってわかってるし、でも消化しきれずモヤモヤしてる自分も嫌いで…。1人でいるとどんどんマイナス思考に陥ってしまって…」
ポロポロ涙をこぼす湊世さんの手をそっと握った。
優しい湊世さん。
紘斗さんを愛しているから、ワガママ一つ言わずずっと1人で我慢してたんだ。
そんな湊世さんの辛さや淋しさを少しでも分けて欲しいと思った。
「湊世さん、俺…ずっと側にいるから…」
「ありがとう、環生さん」
涙をいっぱいにためた湊世さんは、ぎゅっと抱きついてきた。
俺も湊世さんの背中に手を添えて守るように抱きしめる。
悲しい事があった時、慰めてくれた柊吾の温かな手を思い出しながら、俺は湊世さんを抱きしめ続けた。
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