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第14章 第12話
「環生 さん、ありがとう」
しばらくして俺の腕の中で落ち着きを取り戻した湊世 さんは、少し笑ってくれた。
友達に抱きしめてもらったの初めて…と、照れながら。
「湊世さん…俺、思った事があるんだけど聞いてくれる?」
「うん…」
さっきまで湊世さんを抱きしめながら考えていた紘斗 さんの事。
きっと紘斗さんは可愛い甥っ子の相手をしている時、子供を抱っこする湊世さんを想像しただろう。
その時、湊世さんを愛してる紘斗さんは何を感じたんだろうって。
「…もしかしたら、紘斗さんも湊世さんと同じ事感じてるかも…」
「えっ…?」
「だって2人は男同士。湊世さんは紘斗さんの子供を産めないけど、同じように紘斗さんも湊世さんの子供を産めないよ。湊世さんが申し訳ないな…って思うように、紘斗さんも湊世さんに悪いと思ってるんじゃないかな…」
「紘斗さんにはそんな事思って欲しくないよ。俺は紘斗さんが好き。確かに子供がいたら賑やかで楽しいかも知れないけど、いなくてもかまわない。俺は紘斗さんがいればそれでいい」
湊世さんの真っ直ぐで熱い想い。
これほど誰かを愛せる湊世さんは素敵だと思う。
「…うん。きっと、紘斗さんも湊世さんと同じ気持ちだと思うよ。だから、湊世さんが追い目を感じる必要ないんじゃないかな…」
「…そうかな…」
「うん。だって前に会った時の紘斗さん、湊世さんの事が好きで好きでたまらないって感じだったよ」
「紘斗さん、いつもあんな感じだから…」
恥ずかしそうにしながらも、ふふっと微笑む幸せそうな湊世さん。
可愛いなぁ…と思っていると、湊世さんのスマホが鳴った。
「紘斗さんだ…」
「俺、リビングに行ってるね」
「いいの?環生さん」
「大丈夫。ほら、早く出てあげて」
うん…とうなずいて、すぐ電話に出た湊世さんを微笑ましく思いながらリビングへ。
水でも飲もうとキッチンへ行くと、そこには先客の柊吾 。
「どうしたの、柊吾」
「べ、別に…喉が渇いただけだ。盗み聞きしてた訳じゃないぞ」
本当かな…。
過保護の柊吾は、2人きりの湊世さんと俺が何かのキッカケでイイ雰囲気になって、間違いが起きたらいけないって警戒してるに違いない。
2人ともネコ専門だし、湊世さんは既婚者なのに。
…とは言いつつも、さっきまで湊世さんを抱きしめてたのは事実。
柊吾の嗅覚は異常だから、念のため少し距離を空けて水を飲む。
「…俺がアイツと話すのは、環生の友達だからだ。それ以上の感情は何もないぞ」
「何…唐突に」
「お前…昼間、アイツと俺が話してる時、淋しそうな顔してただろ」
「そ、そんな事…ないよ…」
動揺を隠したくて、水のおかわりをした。
本当は柊吾が湊世さんと仲良く話すのを見るのは、ちょっとだけ淋しかった。
湊世さんは人妻だし、柊吾も浮ついた気持ちなんてないし、俺の友達だから気をつかってくれてるってわかってるけど、何だかモヤモヤした。
柊吾には幸せになってもらいたいし、気持ちの整理がついたら新しい恋もして欲しい。
そう願っているはずなのに、柊吾が優しくするのは俺だけがいい。
俺だけの柊吾でいて欲しいって思ってしまった。
「環生…」
手を引かれてぎゅっと抱きしめられる。
柊吾の優しい腕の中。
いつだって柊吾は俺の欲しい言葉や温もりをくれる。
「ん?お前…アイツとくっついただろ」
うわぁ、やっぱりバレた!
湊世さんの事情を話す訳にもいかないし、面倒な事になったな…と思っていたら、すぐに唇を奪われた。
「しゅ、柊吾…待って」
「待たない。環生から他の男のにおいがするのは気に入らない」
他の男って…。
湊世さんは友達なのに…。
体の奥が疼くような濃厚で性的で、ちょっと荒々しいキス。
逃げられないように腰を抱かれて、下半身をグリグリ押し付けられる。
こんなのされたら、体の力が抜けてくる。
何も考えられなくなりそう…。
柊吾のキスに溺れかけていると、ゴトンッと何かが落ちる音。
慌てて音のした方を見ると、そこには湊世さんが立っていた。
「ごっ、ごめんなさい!お邪魔しました…!」
俺たちの姿を目撃した湊世さんは、落としたスマホを拾うと、急いで部屋へ戻ってしまった。
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