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第14章 第14話side.柊吾
〜side.柊吾 〜
環生 と手を繋いで俺の部屋へ。
友達がパートナーと仲良く帰って行って満足そうにしつつも、ちょっと淋しそうな顔をしていた環生。
放っておけなくて思わず手を差し出した。
人肌恋しそうな顔をしながらベッドに入ってきたから、抱き寄せて腕枕をする。
きっと仲のよさそうな友達夫夫を 見てうらやましくなったんだろう。
単純で可愛い、環生。
めいっぱい甘やかしてやろうと髪を撫でていたら、何かを言いたそうにじっと俺を見た。
「柊吾、俺…明日、北海道に行って来る」
「…アイツに…会いに行くのか?」
「うん…」
環生はどうしてそこまでアイツに執着するんだろうか。
俺にはその理由がわからない。
環生の恋人アイツはいつも仕事ばかり優先して、環生を悲しませて、我慢させてばかりだ。
俺たちにも挨拶に来て、いい奴だと思っていたのに、今は釣った魚に餌をやらない不誠実な男に見えて仕方ない。
「だめだ、行かせない」
北海道なんて遠すぎる。
1人で出かけて、もし何かあったらどうする。
環生に困った事があっても、悲しい事があっても、陸続きでないから、すぐに駆けつけてやれない。
「柊吾が反対しても俺は行くよ」
頑固な環生は、一度決めたら俺が何を言っても聞きやしない。
俺に環生を束縛する権利はないが、どう考えても気に入らない。
「アイツのどこがいいんだよ…。アイツ…本当に環生の事好きなのか?環生がわざわざ北海道まで会いに行く価値のある男なのか?」
「恭一 さんの気持ちや、一般的な恋人としての価値は俺にはわからないよ。でも、俺は会いたい。会って話をしたい」
だから行くよ…と、決意は揺らがない。
「柊吾が俺を心配してくれてるのは嬉しい。こうやって柊吾の腕の中で守り続けてもらったら悲しい思いをしなくて済むかも知れない。でも…逃げていたら、すれ違いが続いて恭一さんは本当に手の届かない人になっちゃう…」
必死に俺に訴える環生。
そこまで言うなら止めはしないが、心配は心配だ。
「わかった、俺も行く」
「ええっ、嫌だよ。無理、絶対着いて来ないで」
「何だよ、別行動だからいいだろ。環生と同じ土地にいたいんだ」
「だめ。柊吾が着いてきたら、柊吾や俺が心配だ…って、秀臣 さんも麻斗 さんも着いて来ちゃうし、便乗して賢哉 さんも来て家族旅行になっちゃう」
そんな未来がたやすく想像できて可笑しくなった。
俺を含め、この家の人間は環生が好きすぎる。
「…留守番してればいいんだろ…」
「ありがとう。お土産買ってくるからね」
嬉しそうな環生は俺にチュッとキスをする。
そのキスで、ますます胸のモヤモヤが大きくなった。
きっと北海道に行ったら、環生はアイツに抱かれるんだ。
俺たちが愛してきたこの体をアイツに捧げるんだ。
環生は恋人ができても俺たちとの関係は変わらないと言ってはいるが、実際にアイツのものになったら、もう俺たちとの関係を望まないかも知れない。
こんな風に俺のベッドに潜り込んでくるのも今夜が最後かも知れない。
胸が苦しくなって思わず抱き寄せた。
俺の気持ちなんて知らない環生は、いつものようにくっついて甘えてくる。
可愛い環生。
やっぱり行かせたくなくて、いつもよりきつく抱きしめた。
「柊吾…?」
「……」
「大丈夫。すぐに帰ってくるよ」
俺が置いて行かれるのを不安がっていると思ったんだろう。
俺を落ち着かせるように抱きしめ返して背中をさすった。
明日なんて来なければいい。
本気でそう願いながら、環生の温もりを感じていた…。
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