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第14章 第21.5話

「…ったく、何で父さんがいるんだよ。環生(たまき)と2人きりになるチャンスだったのに」 ここは帰りのバスの中。 俺の左隣で文句を言うのは柊吾(しゅうご)。 「環生に会いに来たに決まっているだろう。なぁ、可愛い環生」 俺の右隣でご機嫌なのは誠史(せいじ)さん。 2人とも俺の隣に座るって言い張るから、一番後ろの座席で3人横並び。 誠史さんの話を聞こうとすると、柊吾がちょっかいをかけてくる。 柊吾に北海道での事を話そうとすると、今度は誠史さんがイタズラをしてくる。 今ならモテすぎて困る人の気持ちがわかる気がする。 贅沢な悩みだけど困ったな…。 「環生は俺とくっつきたいんだ」 「そんな事はない。お前がしつこいからそういう事にしているだけだ。本当の環生は俺がいいに決まってるだろう」 どうしようか考えているうちも俺の取り合いは続く。 しかもだんだんヒートアップ傾向。 いい解決策が見つからない俺は、寝たふりをしてその場をやり過ごす事にした。 「環生、寝るなら俺にもたれろよ」 すぐに気づいた優しい柊吾は、俺が寝やすいよう肩を貸してくれる。 そっと抱き寄せられる体。 柊吾の温もりが心地いい。 このままくっついていたら、本当に眠ってしまいそう。 「環生は俺の腕の中の方が安眠できるんだ」 誠史さんは奪うように柊吾から俺を引き離す。 俺、今寝てる設定なのになかなか強引。 そう思うのに、抱きしめられて感じる久しぶりの誠史さんのにおいや温もり。 包み込まれる感じがたまらない。 あぁ、幸せ…。 こんな事になったのは俺が原因だってわかってる。 でも、どっちも同じくらい好きだから仕方ない。 保科(ほしな)家、誰かいてくれるかな…。 このまま3人きりだったら、ますます俺の取り合いが激化しそう。 そんな事を考えているうちに、2人の温もりに安心した俺は本当に眠ってしまったんだ…。 ────── 「環生、ちょっといいか」 「あ、うん…」 皆で楽しく食事を済ませた後の事。 洗い物をしていたら、柊吾が隣にやってきた。 「今日…父さんと過ごすのか?」 「うん…せっかく帰ってきてくれたから」 本当は柊吾の部屋に行くつもりだったけど、普段日本にいない誠史さんはレアキャラ。 だから今夜は誠史さんと過ごす。 誠史さんが帰国したら誠史さんを最優先。 それが暗黙の了解みたいになっている。 「嫌だ。今夜は俺の部屋に来てくれよ。環生が帰ってくるの楽しみにしてたんだ」 俺が洗い物をしてるのもおかまいなしに、ぎゅっと抱きしめられる。 どこにも行かせないと、まるで俺を閉じ込めるような抱きしめ方。 「なぁ、いいだろ…」 「柊吾…」 甘えるような、すがるような…それでいて、どこか俺を誘うような声音。 恭一(きょういち)さんに会いに行って、柊吾に淋しい思いをさせた自覚もあるし、そんなに真っ直ぐ気持ちをぶつけられたら心が揺らいでしまう。 「待たせたなぁ、環生。さぁ部屋へ行こう」 「誠史さん…」 キッチンに現れたのは、お風呂上がりの誠史さん。 柊吾の腕に力がこもる。 「どうした、環生。久しぶりに抱かせてくれないか。いつものように気持ちいい事をたくさんしよう」 誠史さんは確信犯。 わざと柊吾を刺激しつつ、俺をドキドキさせるような言葉を選んだんだ。 困ったな…どうしよう…。 分身できない自分がもどかしい。 二部制…って訳にもいかないし…。 「…どっちかなんて選べないから…今日は1人で寝るよ」 「そうなのか…環生…」 柊吾は本気で落ち込んでる様子。 柊吾はいつも俺の気持ちを優先してくれるから。 どっちつかずの態度を取った上に、逃げるなんて卑怯だと思うけど、俺には選べない。 「…環生がどちらかを選べなくて、俺たちも環生を譲れないなら3人で一緒にすればいい。親子丼3Pだ。面白そうだろう?」 「なっ…、何考えてるんだよ。父親と一緒にヤラシイ事なんてできる訳ないだろ」 親子丼3P…。 魅力的なフレーズに胸がときめく。 誠史さんも柊吾も俺とするエッチな事が好き。 俺も2人とするのが大好き。 俺を悦ばせようと、あの手この手で愛してくれる2人と、同時に気持ちいい事をしたら最高に決まってる。 「柊吾、俺は最大限に譲歩したぞ。本来なら環生と2人きりで過ごせるはずだったんだ」 「何だよ、それ…。環生も何とか言ってやれよ」 「柊吾…俺、ちょっと興味ある…」 「本気か、環生」 「うん…」 ちょっと…じゃなくて、本当は興味津々。 好奇心旺盛で2人の事を大好きな俺はもうすっかりその気。 「柊吾…親子丼3Pしたいな…」 柊吾の弱点、上目づかいのおねだりモード。 葛藤している柊吾を見つめ続けていると、しばらく無言だった柊吾がため息をついた。 「…わかった。環生を一番悦ばせてやれるのは俺だって証明してやる」 「それはどうかな…。環生もそれでいいかい?」 「うん…親子丼3P楽しみ」 俺は初めて経験する濃密で甘やかなひと時を想像して、体が疼くのを感じていた…。

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