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第14章 第27話

名残惜しそうに部屋に戻る柊吾(しゅうご)を見送ってから、誠史(せいじ)さんの元へ。 誠史さんは間接照明をつけただけのリビングで、ワインを飲んでいた。 「誠史さん…」 食器棚から自分のグラスを取ってソファーに座った。 いつもみたいにくっついていいかわからなかったから、少しだけ距離を置いて。 「あぁ、環生(たまき)か。さっきは悪かったな」 「ううん、俺の方こそ…」 抱き寄せてもらえないのが淋しかったけど、仕方ない。 さっき拒まれたばかりで、自分から近づく勇気はなかった。 「環生も飲むかい?」 「うん、少しだけ…」 グラスを差し出してワインを注いでもらう。 乾杯をして一口飲んだ。 酸味の後に渋味を感じる大人の味。 お子様舌の俺が美味しいと思えるのはもう少し先かも。 急いでおつまみのドライフルーツを頬張った。 「ごめんね、誠史さん。気づかいが足りなくて…」 「…環生は3Pが好きなのかい?」 「3P『が』って言うよりは3P『も』好き…に近いかな…。2人がかりで全身愛されると、すごく気持ちいいよ。俺も2人に気持ちいい事してあげられるから、充足感がすごくて…」 「そうか…。俺には理解が及ばない世界だと思い知ったよ。俺に抱かれる可愛い環生が他の男を求めるのは気に入らない」 誠史さんは俺を見ないまま、グイッとグラスの中身を飲み干した。 「誠史さん、そんなに独占欲強かったっけ…?」 「環生だけは特別だからなぁ」 「特別…?」 「あぁ、特別だ」 その『特別』がどんな『特別』かはよくわからないけど、大切に思ってもらえてるのはわかる。 嫌われてはいないようでホッとした。 「ここまで環生の虜になるとは思わなかったなぁ。環生の恋人に会ったら、宣戦布告をしてしまいそうだ」 「ええっ、どうしよう…」 冗談なのか本気なのかわからなくて狼狽える。 誠史さん、予想以上に強火だから、本気で恭一(きょういち)さんに『環生は渡せない』とか言いそうで。 「なぁ、環生。俺にしないか」 グラスを置いた誠史さんが俺の腰を抱き寄せたから、一気に2人の距離が縮まった。 ギラギラと雄みを感じる真剣な眼差しで見つめられてドキッとする。 「か、からかわないで…」 「俺が環生をからかう訳ないだろう?」 いつもの言葉遊びだってわかってる。 誠史さんの心の中に住んでいるのは、別れてしまった奥さんだから。 俺の反応を見て楽しんでるだけ。 誠史さんの意地悪。 「…誠史さんが酔ってない時に同じ事言ってくれたら考える」 「ははは、環生は手強いな」 そう言って微笑む誠史さんはいつもの誠史さんだった。 今ならキスしてくれるかも。 そう思った。 「誠史さん…」 名前を呼んで、じっと見つめて…それから瞳を閉じた。 少し待っていると、大人味のする優しい唇。 変わらず愛されてるってわかる触れ方。 嬉しくなって俺からも唇を寄せた。 「誠史さん…俺の事、好き?」 「あぁ、好きだよ。3Pが好きな環生も好きだ」 「…ありがとう。俺もこのワインが好きな誠史さんが好き。『好き』が全部一致してなくても誠史さんが好きだし、大事だよ」 自分の正直な気持ちを伝えると、誠史さんの瞳が穏やかになっていく。 頬に触れる温かな手。 「可愛いなぁ、環生は。本気で口説きたくなる」 「はいはい、また今度ね」 ふふっと微笑み合ってまた口づけを交わす。 「そうだ環生、再来週ベッドが届くから受け取っておいてくれ」 「えっ、ベッド…?」 「あぁ、環生の部屋に置く俺と環生専用のベッドだ。あの布団だと、柊吾に抱かれた環生を思い出してしまうからな」 えぇ…そんなに嫌なんだ…。 それなら今夜はどこで眠るんだろう。 「今夜はここで朝まで飲もう。付き合ってくれるかい?」 「…うん、いいよ」 途中で眠くなってしまいそうだけど、誠史さんがそうしたいって思うなら付き合おうと思った。 「ワインに飽きたらキスをしよう。何だったらここでさっきの続きをしてもいい」 「キスはいいけど…続きはしないよ」 「ははは、そうか…」 「そうだよ、もう…」 それくらい強めに言って止めておかないと、誠史さんはあの手この手で俺を誘惑して事に及ぼうとするんだから。 でも…そうやって求められると嬉しい。 誠史さんもそれを知ってるから、こんな感じなんだろうな…。 そんな事を思いながら、誠史さんの頬にそっとキスをした。

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