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第14章 第28話side.麻斗

〜side.麻斗(あさと)〜 朝、仕事から帰ったら父さんがいた。 相変わらず神出鬼没だ。 ソファーにはご機嫌な父さんと、父さんの膝枕で眠っている環生(たまき)。 テーブルにはワインのボトルとグラスが2つ。 朝から…という訳ではないだろうから、夜通し飲んでいたんだろうか。 仕事の関係者と会う約束があるからと、颯爽と出かけていった父さん。 そのまま帰国するらしい。 家を出る時に、環生にたくさんお別れのキスをしていった。 夜に何があったのか、それとなく柊吾(しゅうご)に聞くと、気まずそうな顔をしながらも事の顛末を話してくれた。 親子丼3Pに挑んだ事、上手くいかなかった事、父さんと環生が一晩中イチャイチャしながらワインを飲んでいた事。 あぁ、それで…。 全ての謎が解けた気がした。 父さんは何でも自分の思い通りにしたい人。 特に環生への思いが強い。 お気に入りの環生が3P中によそ見をするのは許せなかったんだろう。 柊吾も目の下に立派な隈を作っていたから、気になって眠れていない様子。 まったく、いい大人ばかりで何をやっているんだか…。 巻き込まれる環生の身にもなってやって欲しい。 こんなに話し声や物音がしても目を覚ます気配がない環生。 北海道から帰ってきたばかりで疲れもたまっているだろうに。 「柊吾、後は片付けておくから、環生と一緒に寝ておいで」 「俺は…別に…」 「遠慮しなくていいよ。思う存分、環生を独り占めしておいで」 そう伝えると、柊吾はすぐに環生の側へ行く。 愛おしそうに頬を撫でた後、そっと環生を抱き上げた。 きっとようやく自分の手元へ帰ってきた環生が可愛くてたまらないんだろう。 無意識のはずの環生も、柊吾に甘えるように頬ずりをする。 照れてニヤニヤする柊吾も、幸せそうな寝顔の環生も本当に可愛らしい。 仕事の疲れがスーッと消えていくような気がする。 これが俺の癒しなのかも知れない。 両手が塞がっている柊吾と一緒に部屋まで行って、ドアを開ける。 掛布団をよけて、柊吾がベッドに環生をおろすのを手伝った。 「麻斗…ありがとう」 「どういたしまして。おやすみ、柊吾、環生」 ドアは閉めておくから…と伝えて、足早に出口へ向かう。 早速ベッドに入って環生を抱き寄せようとする姿が微笑ましい。 きっと環生が目を覚ましたら、濃密な2人の時間を楽しむんだろう。 今日のお昼と夜はデリバリーにしよう。 そう思いながら静かにドアを閉めた…。

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