386 / 420
第15章 第3話side.恭一
〜side.恭一 〜
「期間限定のケーキ、色々買えてよかったですね、恭一さん」
「そうですね、環生 さん」
車の助手席で、ケーキが入った箱を膝に乗せて嬉しそうにしているのは私の大切な環生さん。
周囲に誰もいない事を確認してから、そっと口づけを交わす。
恥ずかしそうにうつむく環生さんは本当に可愛らしい。
散歩の後で寄ったのは、期間限定スイーツが人気のカフェ。
今日のデートは私のプロデュース。
このカフェも環生さんが気に入ると思って選んだお店の一つ。
初夜を迎える大切な日は思い出に残るものにしたい。そんな私の思いを汲み取った環生さんは、全てを私に託してくれた。
きっと環生さんは、どんなデートコースを選んでも喜んでくれるだろうけれど、普段淋しい思いをさせてしまっている分、たくさんの笑顔をプレゼントしたい。
自分の中での完璧なデートプランを練り上げた。
当初のプランでは、カフェでケーキを食べる予定だったけれど、少し予定を変更してケーキはテイクアウトに。
私の中では自信のあるプランだったけれど、想定外の事が起きた。
予想を遥かに上回るレベルで、環生さんが可愛らしかった。
指輪を見つめながら幸せそうに微笑む姿も、時々キスをして欲しそうに私を見つめる瞳も、甘えるように絡めてくる指も、全てが愛おしくてどうしてもキスがしたくなってしまった。
予定より1時間半早い帰宅。
ケーキタイムより先に環生さんを抱きしめてキスがしたい。
でも、お店での環生さんはキラキラした瞳で楽しそうにケーキを選んでいた。
今もどのケーキから食べようかを考えているのかも知れない。
キスかケーキかどちらを先にするかと聞く訳にもいかず、食器とフォークの準備をしていると、環生さんが私の手を引いてソファーに座るように促した。
「俺…キスもケーキもどっちも欲しいです」
そう言って私の膝にお姫様抱っこのような体勢で座った環生さん。
どちらかではなく、どちらも手に入れようとする可愛らしい貪欲さは私も見習いたいところ。
「環生さんのそういうところも好きですよ」
「俺も…優しい恭一さんが好きです」
そっと抱きしめて頬を撫でて、ゆっくり唇を重ねる。
温もりや感触を楽しむように何度か触れると、環生さんも幸せそうに応えてくれる。
先を求める気配はなさそうだから、次はケーキをご所望の様子。
「環生さん、ケーキタイムにしましょうか」
「はい。俺…恭一さんの膝の上で食べてもいいですか?」
「もちろんいいですよ。どのケーキにしますか?」
「うーん…。どれも美味しそうで、ずっと迷ってるんです。和栗のムースか、パンプキンタルトか…」
安納芋モンブランもいいな…と、真剣に悩んでいる様子も愛らしくて、思わず笑みがこぼれる。
「環生さん、迷った時は全部食べればいいんですよ。2人でシェアしたら食べ切れるでしょう」
環生さんを膝に乗せたまま、お皿にカットケーキを並べていく。
色とりどりの美味しそうなケーキを見た環生さんの笑顔が弾けた。
気になっているのは真っ先に名前が出た和栗のムースのはず。
スプーンですくって、そっと口元に差し出すと、恥じらうそぶりを見せた。
「大好きな恭一さんの膝の上で、恭一さんにケーキを食べさせてもらえるなんて、最高の贅沢です」
いただきます…と、言って、私の手から嬉しそうにケーキを食べる環生さんを見つめる。
私にとって最高の贅沢。
「甘くて栗のいい香りがして美味しいです、恭一さん」
「それはよかったです。次は何にしますか?」
「次は…恭一さんのキスがいいです」
環生さんから重ねられた柔らかな唇からは、ふわりと栗の香りがした…。
ともだちにシェアしよう!