389 / 420
第15章 第6話
「もう少し待っていてくださいね」
恭一 さんはごく自然な流れでコンドームの箱を開ける。
お互いのためを思ったらつけた方がいいに決まってる。
わかっているけど、ちょっと淋しかった。
何でも事前に確認してくれるのに、つけるかどうかは聞いてくれないんだ…。
「恭一さん、俺…そのままの恭一さんが欲しいです」
「環生 さん…本当は私もです。ですが今日だけは、おすすめできないんです」
えっ、今日だけ…?
初めて結ばれる記念の夜なのにどうして…?
「…環生さんがお腹を壊してしまうかも知れません」
「大丈夫です。俺…お腹、強い方だから…」
いつも保科 家の皆に中出しされても平気ですとは言い辛くて、ふんわりとごまかす。
でも、恭一さんは静かに首を横に振った。
「でも、俺…。大好きな恭一さんと直接触れ合いたいし、中出しもして欲しいんです。恭一さんが全部欲しいです」
「私も同じ気持ちです。ですが…」
明らかに不安そうだし、恭一さんの恭一さんもどことなく元気がない。
俺を傷つけないよう同意してくれただけで、本当はつけたい派なのかな…。
今日『が』だめなのか、生そのものがだめなのか、そのあたりをちゃんと把握したい。
「恭一さんの考えてる事…知りたいです」
「完全に私の落ち度なので聞かないでください。環生さんをがっかりさせたくないんです」
「俺…何を聞いても平気です。逆に今のままだと余計にモヤモヤします」
言葉だけでは伝え切れなくて、瞳でも訴えた。
大切な事だから隠さないで欲しい。
2人の事なのに自己完結しないで欲しい。
「…環生さんと初夜を迎える今日が楽しみでした。何度も環生さんを抱けるよう体の調整をしていたんですが、タイミングを逃して少々長めに禁欲生活を送ってしまって…」
申し訳なさそうな恭一さん。
体の調整?禁欲生活…?
もしかして、エッチな俺を満足させようとして…?
「だから…その…きっと精液も古くなっています。もしかしたら細菌も増えているかも知れません。それを環生さんの中に直接注ぐのは抵抗があって…」
段取りが悪くてすみません…と、しょんぼりする恭一さんはひと周り小さく見えた。
優しくて可愛らしい恭一さん。
全部全部俺のために…。
たまらなくなって恭一さんに抱きついた。
「恭一さん…ありがとうございます」
「どうしてですか…。全部裏目に出てしまったのに…」
「だって、全部俺のためです。恭一さんの気持ち、嬉しいです」
本当です…と伝えて、またぎゅっと抱きつく。
しばらく間があった後、恭一さんも抱きしめ返してくれた。
「ありがとうございます、環生さん。正直に話してよかったです…」
「…これからも、何でも話してくださいね」
「………」
あ、あれ?
ここは『そうですね。そうします』の流れだよね…。
不思議に思って恭一さんを見ると、困った顔をしていた。
「全てを話して環生さんに幻滅されるのが怖いんです。環生さんは私の事を過大評価していますから、憧れの対象でいられるよう色々と大変なんですよ」
「幻滅なんてしません。むしろ好感度爆上がりです。話してもらえないまま体を重ねたら、淋しい思いをしていたと思います」
今度は恭一さんが不思議そうな顔で俺を見た。
えっ、俺…変な事言ったかな。
「環生さんは本当に不思議な人ですね。今の流れのどこに好感度が上がるポイントがあったのか、私にはよくわかりません」
でも、よかったです…と、穏やかに微笑む恭一さん。
「いいんです。俺だけがわかっていれば」
頬にチュッとキスをする。
エッチな流れではなくなってしまったけど、気持ちを伝え合った事で心の距離は近づいた気がする。
それはそれで幸せな事。
「これ…俺が恭一さんにつけてもいいですか?」
「お願いしてもいいですか?」
「もちろんです。喜んで」
俺はウキウキしながら、オシャレな個包装を手に取った。
ともだちにシェアしよう!