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第15章 第6話

「もう少し待っていてくださいね」 恭一(きょういち)さんはごく自然な流れでコンドームの箱を開ける。 お互いのためを思ったらつけた方がいいに決まってる。 わかっているけど、ちょっと淋しかった。 何でも事前に確認してくれるのに、つけるかどうかは聞いてくれないんだ…。 「恭一さん、俺…そのままの恭一さんが欲しいです」 「環生(たまき)さん…本当は私もです。ですが今日だけは、おすすめできないんです」 えっ、今日だけ…? 初めて結ばれる記念の夜なのにどうして…? 「…環生さんがお腹を壊してしまうかも知れません」 「大丈夫です。俺…お腹、強い方だから…」 いつも保科(ほしな)家の皆に中出しされても平気ですとは言い辛くて、ふんわりとごまかす。 でも、恭一さんは静かに首を横に振った。 「でも、俺…。大好きな恭一さんと直接触れ合いたいし、中出しもして欲しいんです。恭一さんが全部欲しいです」 「私も同じ気持ちです。ですが…」 明らかに不安そうだし、恭一さんの恭一さんもどことなく元気がない。 俺を傷つけないよう同意してくれただけで、本当はつけたい派なのかな…。 今日『が』だめなのか、生そのものがだめなのか、そのあたりをちゃんと把握したい。 「恭一さんの考えてる事…知りたいです」 「完全に私の落ち度なので聞かないでください。環生さんをがっかりさせたくないんです」 「俺…何を聞いても平気です。逆に今のままだと余計にモヤモヤします」 言葉だけでは伝え切れなくて、瞳でも訴えた。 大切な事だから隠さないで欲しい。 2人の事なのに自己完結しないで欲しい。 「…環生さんと初夜を迎える今日が楽しみでした。何度も環生さんを抱けるよう体の調整をしていたんですが、タイミングを逃して少々長めに禁欲生活を送ってしまって…」 申し訳なさそうな恭一さん。 体の調整?禁欲生活…? もしかして、エッチな俺を満足させようとして…? 「だから…その…きっと精液も古くなっています。もしかしたら細菌も増えているかも知れません。それを環生さんの中に直接注ぐのは抵抗があって…」 段取りが悪くてすみません…と、しょんぼりする恭一さんはひと周り小さく見えた。 優しくて可愛らしい恭一さん。 全部全部俺のために…。 たまらなくなって恭一さんに抱きついた。 「恭一さん…ありがとうございます」 「どうしてですか…。全部裏目に出てしまったのに…」 「だって、全部俺のためです。恭一さんの気持ち、嬉しいです」 本当です…と伝えて、またぎゅっと抱きつく。 しばらく間があった後、恭一さんも抱きしめ返してくれた。 「ありがとうございます、環生さん。正直に話してよかったです…」 「…これからも、何でも話してくださいね」 「………」 あ、あれ? ここは『そうですね。そうします』の流れだよね…。 不思議に思って恭一さんを見ると、困った顔をしていた。 「全てを話して環生さんに幻滅されるのが怖いんです。環生さんは私の事を過大評価していますから、憧れの対象でいられるよう色々と大変なんですよ」 「幻滅なんてしません。むしろ好感度爆上がりです。話してもらえないまま体を重ねたら、淋しい思いをしていたと思います」 今度は恭一さんが不思議そうな顔で俺を見た。 えっ、俺…変な事言ったかな。 「環生さんは本当に不思議な人ですね。今の流れのどこに好感度が上がるポイントがあったのか、私にはよくわかりません」 でも、よかったです…と、穏やかに微笑む恭一さん。 「いいんです。俺だけがわかっていれば」 頬にチュッとキスをする。 エッチな流れではなくなってしまったけど、気持ちを伝え合った事で心の距離は近づいた気がする。 それはそれで幸せな事。 「これ…俺が恭一さんにつけてもいいですか?」 「お願いしてもいいですか?」 「もちろんです。喜んで」 俺はウキウキしながら、オシャレな個包装を手に取った。

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