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第16章 第1話
月日が経つのは本当に早くて、今年も無事に新しい年を迎えた。
恭一 さんは相変わらず忙しくて、俺の27歳の誕生日もクリスマスも年末年始も仕事だったけど、お互いの家を行き来するようになったから、去年ほど淋しくはなかった。
それは全部保科 家の皆のおかげ。
皆が恭一さんを受け入れてくれたし、恭一さんがいない時は一緒に過ごしてくれるから。
秀臣 さんと賢哉 さんは元日に入籍して、正式な夫夫 になった。
世界中が祝福ムードになっている晴れやかで温かな日だから…と、その日を選んだ秀臣さん。
賢哉さんは『結婚記念日を忘れて、僕に叱られたくないからだよ』と、幸せそうに微笑んでいた。
いいなぁ…結婚。
俺もいつかは恭一さんと…と思うけど、まだ恋人生活を楽しみきれていないから、もうちょっと先でもいいかな…と思う。
でも、早く恭一さんと家族になって、恭一さんを独り占めしたいなぁとも思う。
そんな事を考えながら、友達の湊世 さんに教わったラザニアを作る。
大好きな恭一さんの家のキッチンで。
今夜は恭一さんの家でお泊まりの日。
いつもは恭一さんが仕事帰りに迎えに来てくれるけど、手料理を食べて欲しくてひと足先にお邪魔中。
料理の出来栄えや身だしなみをチェックしていると、インターホンが鳴った。
「おかえりなさい、恭一さん」
「ただいま帰りました、環生 さん」
抱きしめ合って触れるだけのキスをする。
保科家の皆とするのとはまたちょっと違う特別なキス。
冷えた恭一さんを温めてあげたくて背中をさすった。
「美味しそうないいにおいがしますね」
「今日はラザニアを作ってみたんです」
廊下を歩きながらあと10分くらいで焼き上がる事を伝えると、手を引かれて強めに抱きしめられた。
「恭一…さん?」
「…今日は少し疲れました。環生さんを吸ってもいいですか?」
「す、吸う…?」
キスしたいって事?それとも…肌を吸ってキスマークをつけたいって事?
不思議に思っていると、恭一さんは俺の頭のてっぺんあたりに鼻先を埋めた。
スーハー…って深呼吸をする音が聞こえる。
吸うって、俺のにおいのダイレクト吸いなんだ…?
まだお風呂に入ってないし、臭かったらどうしよう。
身動きできないままドキドキしていると、恭一さんが頭を撫でてくれた。
「環生さんを感じられてよかったです」
満足そうな優しい笑顔。
恭一さんは俺をドキドキさせる天才だ。
「俺も…吸ってみたいです」
俺も恭一さんを感じたい。
恭一さんと同じ経験がしたい。
微笑んだ恭一さんは、ひょいと俺を抱っこしてくれた。
「さあ、どうぞ」
「し、失礼します…」
背が高い恭一さんの頭のてっぺん。
なかなか見られない貴重なパーツ。
恭一さんと同じように鼻先を寄せて深呼吸をする。
かすかなシャンプーの香りと、恭一さんの頭皮のにおい、仕事で作ったご飯のにおいが混じっていた。
離れていた間の恭一さんが凝縮されている気がして愛おしくなった。
恭一さんが1日頑張った証。
元気に俺の元へ帰ってきてくれた喜び。
はぁ…癒される…。
恭一さんが『吸いたい』って言った気持ちわかる気がする。
「おかえりなさい、恭一さん」
抱っこされたままの俺は、もう一度おかえりを伝えて大好きな恭一さんにぎゅっと抱きついた。
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