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第16章 第8話
「満開ですね、恭一 さん」
「見頃ですね、環生 さん」
車で30分くらいの距離にある自然公園。
川沿いに咲いているたくさんの桜は満開。
青い空と淡いピンク色の桜と、花壇の菜の花の黄色がすごくキレイ。
広場はカップルやファミリー、学生たちの集まりなどで大賑わい。
場所取りをしていなかった俺たちにレジャーシートを広げられるスペースはなさそう。
手を繋ぎながら散歩をして、写真を撮って、車に戻ってきた。
「少し狭いですが、ここなら2人きりでお花見ができますね」
「そうですね、恭一さん」
少しでも側にいたくて、後部座席に並んで座って膝の上にお弁当を広げた。
賑やかな川沿いもいいけど、恭一さんの車で恭一さんの好きな曲を聴きながら、窓越しの桜とご飯を楽しむのもいい感じ。
恭一さん特製のふわふわ卵焼きに感動していると、ふと感じた恭一さんの視線。
み、見られてる…。
照れてしまって恭一さんの顔を見られないけど、きっと優しい瞳をしていると思う。
「桜を見る楽しそうな環生さんや、お弁当を食べる可愛らしい環生さんを間近で見られて幸せですよ」
そっとこめかみに寄せられる唇。
柔らかな温もりや大好きなにおい。
膝の上のお弁当がなかったら、今すぐにでも抱きつきたい。
そのまま唇にもキスして欲しい。
「キスをして欲しそうな環生さんもいいですね」
大好きですよ…と、囁いた恭一さんは、俺の望み通りのキスをしてくれた。
───食事を終えて、手を繋ぎながら寄り添って2人でうたた寝をしていた時の事。
クライアントさんから電話があって、恭一さんは急に仕事に行く事になってしまった。
せっかくのお花見デートだから淋しい気もするけど、恭一さんが俺の手をぎゅっと握りながら後日にしてもらえないかって交渉してくれたから、その気持ちだけで充分。
家まで送ると言ってくれたけど、クライアントさんがすぐ来て欲しそうだったし、道が渋滞してるから遠慮した。
恭一さんからの申し訳なさそうな『行ってきます』のキス。
俺は張り切ってお仕事してきてくださいと伝えて『行ってらっしゃい』のキスをした。
口づけを交わした後の恭一さんは、もうお仕事モードの顔をしていた。
プライベートの恭一さんも大好きだけど、初めて恭一さんに魅かれたのはお仕事モードの時。
その姿を間近で見たらときめいてしまう。
色々な恭一さんが見られて幸せだな…と、思いながら愛車で出かける大好きな人を見送った。
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