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第16章 第9話

さて、どうしよう…。 せっかくだからもう少し散歩してから帰ろうかな。 キッチンカーや屋台ものぞいてみたい。 深呼吸をしながら川沿いの桜並木を歩いてみた。 空も桜も菜の花も変わらずキレイなはずなのに、少しくすんで見えた。 さっきは大好きな恭一(きょういち)さんと一緒に見たから色鮮やかに見えたのかも知れない。 それに気づけた事が嬉しかった。 前の俺だったら、きっと今のこの状況を淋しがっていたと思う。 仕事に行かないで…って思っただろうし、納得して恭一さんを送り出しても、ひとりぼっちになった事を悲しんでいたはず。 少しずつだけど、1人時間の過ごし方が上手くなってきたと思う。 成長した自分や、まだ伸び代がある自分を誉めてあげたい。 ご機嫌で歩き回って気になったのは、キッチンカーの桜クレープと、屋台の明太マヨたこ焼き。 どっちも美味しそう。 でも、お腹いっぱいお弁当を食べたから両方は食べきれないと思う。 たこ焼きは夜ご飯の一品にして柊吾(しゅうご)と食べようかな。 そんな事を考えながらフラフラしていると、聞き慣れた声が俺の名前を呼んだ。 「柊吾、どうしたの?」 「大学の帰り。アプリ見たら1人だったから」 家に出入りする人が増えたり、活動範囲が広くなったりしてお互いの予定が把握しづらくなってきた俺たちは、予定やリアルタイムの居場所を共有できるスマホアプリを使うようになった。 恭一さんも乗り気で『地図上に環生(たまき)さんの存在を感じると幸せな気持ちになります』って言いながらすぐに参加してくれた。 きっと離れている時に俺を不安にさせないよう配慮してくれたんだと思う。 「アイツ、仕事か?」 「うん、急にそうなっちゃって」 柊吾はやっぱりそうか…みたいな顔をした。 「もしかして迎えに来てくれたの?」 「ん…花見のついでにな」 口ではそう言ってるけど、俺のお迎えがメインで、ついでなのはお花見なんだろうな…。 「ねぇ柊吾、俺…たこ焼きとクレープが食べたい」 「よし、買いに行くか」 柊吾はそう言って俺の手を握った。

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