409 / 420
第16章 第10話side.柊吾
〜side.柊吾 〜
環生 の望み通りのたこ焼きとクレープを買って、並んで土手に座った。
全部は食べ切れないと言うから半分ずつにする。
細い割によく食べる環生。
普段なら余裕で完食できる量だ。
アイツが仕事に行ったから元気がないんだろうか。
「柊吾がいてくれてよかった」
出来立てを両方食べられる…と、上機嫌でクレープを頬張る環生。
そういう無邪気なところが可愛いと思う。
どうやら無理して笑ってる訳ではなさそうだ。
「クリームついてるぞ」
照れる環生が見たくて、唇の端についた生クリームをペロリと舐め取る。
「しゅ、柊吾…!」
まだ明るいし、皆がいるよ…と慌てるから面白い。
暗くて人目がなかったらいいのかよ。
「たこ焼きで手が塞がってるから仕方ないだろ」
「もう…」
絶対わざとだ…と、頬をぷうっと膨らませる環生。
コロコロ変わる表情が可愛くて、ついからかいたくなる。
面白がってニヤニヤしていると、環生が強引にキスをしてきた。
「た、たこ焼きのソースついてたから…」
早口でそう言って、何事もなかったかのようにクレープを食べ始める環生。
小さな耳が真っ赤だった。
俺への仕返しのつもりでやったくせに、一番恥ずかしがっているのは環生だ。
家の中だと、かまって欲しそうにすぐ甘えてくる環生。
外だと周りを気にして遠慮するから、それも可愛いと思う。
「なぁ、今日の夜…俺たちだけか?」
「うん、麻斗 さんも恭一 さんも仕事だから…」
晩ご飯どうしようか…と、今度はたこ焼きをフーフーしている。
帰ってから2人分だけ作るのも面倒だろうから、外食かコンビニか…。
いや、待てよ…。
満開の桜と環生を同時に眺められるのは今だけだ。
このまま帰るのは少し物足りない。
「なぁ、環生」
「ん…?」
「このまま…夜桜も見ないか」
俺の誘いに嬉しそうな顔をする。
俺もそう言おうと思ってた…と、口の端にたこ焼きソースをつけながらニコッと笑った。
ともだちにシェアしよう!