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第16章 第17話

〜side.柊吾(しゅうご)〜 俺の愛撫でトロトロになりかけた環生(たまき)が、不思議そうな顔で俺を見た。 それもそのはずだ。 今からもう1ラウンド…な雰囲気の中、アイツの話をしたからだ。 「何か…知ってるの?」 「いや…」 「それなら…どうして?」 「別に…ただの興味本位だ」 本当の事なんて言えるかよ。 さっきまで見ていたドラマの主人公と環生が重なって心配になったなんて。 その主人公は、不倫をしている夫とのセックスレスに悩んでいた。 拒まれた悲しみと持て余す体の熱をどうする事もできず、辛そうにしていた。 涙するドラマの主人公の横顔がどことなく環生に似ていて、もし環生の身に同じ事が起きたら…と思うと、たまらない気持ちになった。 こんなの…心配しすぎにも程がある。 環生はレスでも浮気された訳でもない。 「そうなんだ…」 環生はそれ以上何も言わず、俺の頭をぎゅっと抱き寄せた。 「大丈夫、恭一(きょういち)さんは浮気しないよ」 心配してくれてありがとう…と、こめかみのあたりに触れた唇。 俺の考えている事なんか、ほぼバレているんだろう。 無性に恥ずかしくなって環生の鎖骨のあたりに顔を埋めた。 「ねぇ、柊吾。聞いてくれる?」 俺の背中を甘やかすようにトントンしながら囁く環生。 手のひらの温もりを感じながら耳を傾ける。 「俺ね、もし…恭一さんが浮気をしたらそれまでだ…って決めてる」 環生が紡いだ言葉は、驚きの内容だった。 俺たちが反対するのは確実だとしても、まさか環生までそう言うとは思わなかった。 浮気されたら別れるなんて、想像以上にあっさりだ。 前に同棲していた浮気男と別れた時は、未練タラタラで泣いていた。 結婚する気でいる相手をそんなに簡単に断ち切れるのか? いや、結婚を意識している相手だからだめなのか…。 「環生…本気なのか?」 「うん、本気。裏切られた人に執着して傷つくのはもうこりごり。それにね…俺、柊吾や保科(ほしな)家の皆に自分の気持ちと体を大切にする事を教えてもらった。だから、ちゃんと俺と向き合ってくれる人と生きていきたい」 環生の瞳には迷いがなかった。 いつものふにゃふにゃで甘えん坊の環生とは違う。 強くて芯が通っている大人の顔をしていた。 一瞬、環生が遠い存在になった気がして戸惑う。 「環生…」 「大丈夫。もしフリーになったら、ずっと保科家でお世話になるね」 よろしくね…と、頬にキスを一つ。 俺たちが手離す訳がないと知っている環生は無敵だ。 環生の幸せを望んではいるが、環生の居場所はこの家であって欲しい。 いつまでも俺たちの環生でいて欲しい。 当たり前だ、そんなの。 返事がわりに環生をぎゅっと抱きしめた。

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