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第16章 第18話

『もし、恭一(きょういち)さんが浮気をしたら関係を終わりにする』 『ずっと保科(ほしな)家にいる』 自分の正直な気持ちを伝えたら、俺を抱きしめる両腕に力がこもった。 『当たり前だ、環生(たまき)の居場所はここだ』 言葉にはしてくれなかったけど、そう言われた気がした。 保科家はもう第二の実家みたいなもの。 恭一さんと結婚する事で疎遠になってしまうのは淋しい。 ワガママで甘えん坊な俺は恭一さんの側以外にも居場所が欲しい。 それを理解して、受け入れてもらえる幸せ。 ニヤニヤしていると、鼻の先をつままれた。 「ご機嫌だな」 「うん、嬉しいなぁ…って思って」 キスをねだると、すぐに重なる唇。 俺の事を可愛がってくれてるんだろうな…って思えるようゆっくり触れるだけのキス。 何度もされるとふわふわ温かくて優しくて、ちょっとくすぐったい。 「恭一さんと住むようになったら、柊吾(しゅうご)と物理的な距離はできてしまうかも知れないけど、心はずっと側にいるよ。柊吾は俺の大事な人だから」 「…俺の事はいい。結婚したらアイツだけを大事にしてやれよ」 そう言いながらも垣間見える柊吾の淋しそうな様子。 本当は俺と遠くなるのが…心を許した人に置いていかれるのが怖いはずなのに。 素直に甘えられないところも可愛くて放っておけなくなる。 「俺にとっては2人とも大事。恭一さんと柊吾の『大事』の種類は違うけど同じだよ」 手を握ると、眉間にシワを寄せて複雑な顔をした。 「…同じな訳ない。1番は1人だけだ。もし、アイツと俺が同時に溺れてたらアイツを助けるだろ?」 急にそんな事を聞かれて戸惑う。 そんな事、想像した事もなかったから。 でも、もしそんな事態になったら俺は…。 「…2人の間に飛び込んで一緒に溺れるよ。どっちかなんて選べないし、2人がいない世界は淋しいから」 それは本当の気持ちだった。 だって、2人はかけがえのない存在だから。 どっちかがいない生活なんて考えられない。 でも、柊吾は不服そうな顔をしていた。 「…俺の事なんて放っておけよ…。アイツと幸せになるんだろ」 「嫌だよ。柊吾もいてくれないと100%幸せって言えないから」 「………」 困ったのと、嬉しそうなのが混じった不思議な顔。 素直に喜べばいいのに。 俺が恭一さんだけを助けたら悲しいくせに。 恭一さんを見捨てて柊吾だけを助けたら、後悔して自分を責め続けるくせに…。 今日の柊吾はかなり面倒くさい。 俺が恭一さんとお泊まりしてたからヤキモチをやいたのかな。 かまって欲しいアピールをしてるのかも。 そんな柊吾も可愛いけど、柊吾も俺にどうして欲しいかわかってないと思うから、この話は終わりにしよう。 きっとお互いモヤモヤするだけだから。 せっかく一緒にいるんだから仲良く過ごしたい。 そっと柊吾の頬に手を添えた。

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